第8話 入学式

 その日は、オレの家族とアリスの家族で楽しく騒いだ。なんか久しぶりのような気がする。学園の試験を受けることにしてから、こんな機会はなかったから。


 その日の夜、オレは自分の部屋にハクと2人でいた。魔法のことやハクのこと、教会のことを知りたくてハクにいろいろ聞いた。



「なあ、ハク。この目の色は治らないのか? このままじゃ目立ってしょうがないよ。」


「魔力を遮断すれば元に戻るさ。」


「ってことは、オレはずっと魔力を放出していたってこと?」


「魔力を持つ者は、意識しなければみんな魔力を出しているのさ。」


「なら、魔力を外に出さないようにすればいいんだな。」


「意外と難しいぞ! やってみろ!」



 オレは鏡で確認しながら魔力を出さないように頑張った。だが、ハクが言うように難しい。



「魔力操作にはコツがあるのさ。桶の水をカップにそそぐつもりで意識を集中してみろ。」



 オレは全身を駆け巡る魔力の流れが緩やかになるように意識した。すると、オレの右目の瞳がブルーに戻っていく。



「ハク! できたよ!」


「おお、早いな。普通はこんなにすぐにはできんもんだぞ!」


「ところで、ハクってあのお婆さんがくれた卵から生まれたんだよね。」


「まあな。」


「あのお婆さんて何者なの?」


「お前は知らんでもいい。」


「わかったよ。じゃあ、ハクは何者なの?」


「わしか? わしは神獣のフェンリルだ。」


「なんか信じられないけど、そういうことにしておくよ。」


「普通の子犬は人の言葉などしゃべらんだろうが。」


「確かにね。なら、ハクは偉いんだね。」


「当たり前だ。もっと敬え!」


「ハッハッ——————」



 オレは拝むような仕草をして、わざとおどけて見せた。



「よせ! そこまでする必要はない!」



 なんかハクは真剣に受けとめているようだった。



「ミライ。明日から魔法の練習をするぞ! アリスに見つかると厄介だから、早朝出かけるからそのつもりでな。」


「わかったよ。お手柔らかに頼むよ。」



 翌朝、まだ辺りは真っ暗だ。オレはハクと一緒に、山の先にある草原地帯に来ていた。



「魔法はイメージと想像力だ! 頭の中に強くイメージして手から炎を出してみろ!」


「うん。」



 オレの頭の中に前世のガスバーナーのイメージが浮かんだ。すると、手から青白い炎が出た。



「不思議な奴だな。普通、炎の魔法は赤色だぞ!」


「そうなの? もしかしたらガスバーナーをイメージしたからかな。」


「ガスバーナー? なんだそれは? まあ、いい。確かにガスが燃える時は温度も高く、炎は青白くなるからな。」


「次に手から水を出すイメージをしてみろ。」



オレは滝をイメージした。すると、手からものすごい勢いで水が噴き出した。辺り一面水浸しだ。



「ミライ! お前、何をイメージしたんだ!」


「滝だけど。」


「お前は馬鹿か! 普通は井戸水とかそういうものを意識するだろうが。」



 その後、土魔法、風魔法、光魔法、闇魔法、時空魔法とすべての魔法の練習をした。



「さすがだな。ミライ。これだけ魔法の練習をしても魔力が尽きないとは、恐れ入ったぞ! 」


「これって、やっぱり教会に行った時のことが関係してるの?」


「そうだろうな。世界を平和にするには、それだけの力が必要ってことさ。でも、その力は他の人間には秘密にしておけよ。世間に知れ渡ったら、お前やお前の家族に危険が及ぶかもしれんからな。」


「でも、いつかバレると思うよ。」


「その時はその時だ。今はまだ早い。」


「わかったよ。気を付けるよ。」



 こうしてオレは、全魔法の適性と魔眼を手に入れた。何よりも最高の師匠ハクを手に入れたことが大きかった。


 カエデ村に3日ほど滞在してから、オレとアリスは王都に戻った。当分会えなくなるせいか、母さんはオレに抱き着いて泣いていた。やはり、母さんの胸は豊満だ。子どものアリスとは段違いだ。


 そして、また一日をかけて王都まで戻り、王立学園に向かった。オレとアリスが学園に行くとすぐに寮に案内された。オレは男子寮に、アリスは女子寮に向かった。寮は3階建ての立派な建物だ。1年生のオレは1階だった。オレが部屋に入ると、そこには風呂もトイレもベッドも机も完備されていた。まるで、王様か王子様の部屋のようだ。ところで、ハクは気配遮断で透明化できるが、今回は鞄の中に隠れていてもらった。


 そして、翌日いよいよ入学式だ。オレはアリスと待ち合わせて一緒に会場に向った。会場内に入ると、オレとアリスのような平民が6割、貴族の子どもが4割ほどだった。前の方には貴族の子どもが座り、我々平民は後ろの席だ。



「ミライ。意外ね。平民の方が多いよ。」


「そうだな。しかも、女性の方が多くない?」


「そうかな~? 同じぐらいじゃないの。ミライはそんなこと気にして、かわいい子がいたら話しかけるつもりなんでしょ!」


「そんなに強く握ったら手が痛いよ! 別にオレは女の子に興味ないし。」


「そうよね。ミライはマリアおばさんが一番だものね。」


「アリス、お前、オレのことマザコンとか思ってるだろう?」


「別に~! 子どもが親を大好きなのはいいことじゃないの。」



 そんな話をしていると、いよいよ入学式が始まった。来賓席にはアレクサンドロス国王とナターシャ王妃、それに2大公爵家が座っている。最初に学園長マキシー先生の挨拶だ。マキシー先生はこの国が生んだ魔法の天才らしい。年齢は不明だが、すでに100歳を超えているという噂もある。



「新入生の諸君。ようこそ我が学園に入学してこられた。この学園では身分や立場に関係なく、お互いに剣に魔法に学問に切磋琢磨して成長して欲しい。君達一人一人の向上が、この国の未来を創るのだ。3年間を実りあるものにして欲しい。以上だ。」


「パチパチパチ・・・・・・」



 続いて来賓代表のアレクサンドロス国王の挨拶だ。国王はキャサリンにどことなく似ている。やはり髪の色は銀髪だ。国王が登壇して話し始めたとき、オレは何故か右肩に強烈な痛みを感じた。


 痛みのせいで、ほとんど国王の言葉が耳に入ってこなかった。そして、いよいよ新入生代表の挨拶だ。今年の首席合格は、この国の第1王女のキャサリンだ。



「私達のために、このような盛大な式典を開いていただき感謝に堪えません。私達はこれから3年をかけて自己鍛錬に励み、“世界の平和”に貢献できる人間になる事を誓います。」



 なぜか、キャサリンは話している間オレを見ている気がした。気のせいかもしれないが、キャサリンはオレを見ながら“世界の平和”と口にした。考えすぎだろうか。


 入学式も無事に終わり、それぞれが自分のクラスに行くことになった。アリスはAクラスへ。オレはDクラスに向かう。


 オレがDクラスに入ると、1部の貴族を除いてほとんどが平民だった。服装でわかるのだ。自由に座っているようだったので、オレは窓際の一番後ろの席、いわゆる“特等席”に座った。すると、先生が入ってきた。20代の女性だ。恐らく新米の先生だろう。



「初めまして。このクラスの担当をすることになったメアリーと言います。よろしくね。じゃあ、一人ずつ自己紹介をしてもらいましょうか。」



 右前から順番に自己紹介が始まった。貴族の子、商人の子、農家の子、まちまちだ。そしていよいよオレの番がきた。



「オレはミライと言います。剣は得意ですが魔法は使えません。実家はカエデ村で農家をしています。よろしくお願いします。」



 何故かみんながオレに注目していた。理由は簡単だ。オレの髪が銀髪だからだ。

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