第7話 久しぶりの帰郷

 オレ達は再びカエデ村に向かった。急ぎ足で歩いたせいか意外と早かった。日が昇り始めたころにはカエデ村に着いた。



「後で、父さんと母さんと一緒にアリスの家に行くよ。」


「わかった。お父さんとお母さんに伝えておくわ。」



 オレ達はそれぞれの家に向かった。オレが家に着くと、庭で父さんが剣を振っていた。上半身は裸だ。いつ見ても逞しい身体をしている。台所から音が聞こえる。どうやら母さんは台所のようだ。



「ただいま~!」


「おお、ミライ! 試験の結果はどうだった?」


「合格したよ。アリスも一緒に合格さ!」


「さすが我が子だ! すぐに母さんに教えてやれ!」


「うん。」



 オレが台所に行くと、母さんがオレを一目見て驚きの声を上げた。



「ミライ! あなた、その目どうしたの? 何があったの? 痛い? 大丈夫?」



 母さんの声を聞いたのか、後ろから父さんがやってきた。



「どうした? 大声なんか出して!」


「ミライちゃんの目がおかしいのよ! ダンテ、あなた気付かなかったの?」


「どれ、見せてみろ!」



 オレが2人に目を見せると、2人は心配そうにオレの目を見た。



「痛いか?」


「いいや、今はもう痛くないけど。」


「ダンテ! 大丈夫かしら?」


「父さん。母さん。大丈夫だよ。ちゃんと見えるし、痛くないから。」


「そ~お。」


「マリア。ミライがこう言ってるんだ。少し様子を見よう。それにしても、マリアはやっぱり母親だな。試験の結果よりも、ミライの身体の方を心配するもんな。」


「ありがとう。父さん。母さん。最初は痛かったけど、もう痛くないから。本当に大丈夫だから。」


「そう。良かったわ。ところでミライ、試験はどうだったの?」


「一応は合格したんだけど、一番下のDクラスだったよ。アリスはAクラスだったから別のクラスだけどね。」


「なんだ! アリスと一緒にいられないのがそんなに寂しいのか?」



 父さんがオレを揶揄うように言った。



「違うよ! そんなんじゃないよ。Aクラスには貴族様の子どもが多いから、アリスが心配なんだよ。」


「お前が守ってやればいいじゃないか。クラスが違ったって同じ学園にいるんだから。」


「そうよ。アリスちゃんのことは、ミライ、あなたが守るのよ。」


「わかってるさ。」


「ところで、肩の上の生き物はなんだ?」


「ああ、ハクね。帰り道でゴブリンに襲われてさ。助けてもらったんだよ。」


「こんなに小さくても強いのね。ありがとうね。ハクちゃん。」



 ハクはオレの肩の上で尻尾をぶんぶん振っている。その後、朝食を食べながら父さんと母さんに王都であったことをいろいろと話した。



「そうか。第1王女のキャサリン様と仲良くなったのか。」



 なんか、父さんと母さんの顔が暗くなった。何故だろうかと不思議には思ったが、深くは考えなかった。



「父さん。母さん。午後からアリスの家に行くって伝えてあるから、一緒に行こうね。」


「なら、山に行って肉を取ってこないとな。ミライ! 早く用意しろよ!」


「まあ、まあ。ダンテはミライが本当に好きなのね。」



 オレと父さんは剣を携えて山に向かった。当然、ハクも一緒だ。山に入ると、いろいろな生き物の気配を感じた。



“ミライ。魔力感知を使え! 体中の魔力を薄く伸ばしていけばいい! 慣れてくれば反応がどんな魔物なのか、どの程度の強さなのかもわかるぞ!”



 オレはハクに言われた通り魔力感知を使った。魔法を使うのは初めてだ。胸のときめきが止まらない。すると、前方500m先に少し大きめの魔力を感じた。恐らくホーンボアだ。



「父さん。前から魔物の気配を感じるよ。オレが狩ってくる。」


「ほう?」



 オレは一目散に魔力の感じた場所に向かった。思った通り、そこにはホーンボアがいた。オレはホーンボアに向かって剣を振りぬいた。だが、ホーンボアの硬い毛に剣の刃が立たない。



“剣に風を纏うイメージでもう一度やってみろ!”



 怒ったホーンベアがこっちに向かって突進してきた。オレは言われた通り、剣に風を纏うイメージをして再度切り付けてみた。すると、今度はホーンベアの頭を切り落とすことができた。直後、後ろから父さんがやってきた。



「ミライ! すごいじゃないか! 一人でホーンボアを倒すなんて!」


「父さんに鍛えてもらってるからね。」


「そうだけど。でも、一人で、しかもこんな短時間で倒すとはな~! もう1人前だな。」


「剣の試験官の騎士団長さんにはとてもかなわなかったけどね。」


「騎士団長? もしかして、ユリウスのことだな。確かにあいつは強い。今のミライじゃ勝てんだろうな。」


「知ってるの?」


「ああ。あいつとは闘技大会で戦ったことがある。オレが負けたけどな。」


「そうだったんだ。父さんが負けるなんて信じられないな。」


「お前は、俺のことを買いかぶりすぎだ。世界には、オレなんかよりも強い奴なんぞ腐るほどいるぞ!」


「世界って? 獣人族やエルフ族、ドワーフ族、魔族のこと?」


「そうだ。恐らく人族が一番弱いだろうな。」


「父さん。オレ、学園を卒業したら世界中を旅するよ。父さんより強い奴らに会ってみたいし。」


「なら、もっともっと強くならないとな。」


「うん!」


「じゃあ、このホーンボアを持って帰るぞ!」



 オレと父さんはホーンボアを持って家に帰り、母さんと一緒にアリスの家に向かった。



「おめでとう。アリスちゃん。学園でもミライをよろしくね。」


「マリアおばさん。大丈夫ですよ。貴族の子ども達が文句を言ってきても、私がミライを守るから。」


「おい、ミライ! お前からも何か言うことがあるだろう! アリスちゃんにこんなことまで言わせていいのか!」


「マーサおばさん。ゲンタおじさん。アリスのことはオレに任せてください。何があっても、オレがアリスを守りますから。」


「あら、あら。アリス。良かったわね。ミライ君、アリスをよろしくね。」


「ミライ。アリスを頼むぞ!」


「はい!」



 アリスは、顔を赤くしてもじもじしている。



「アリスちゃんは美人だから、ミライ。しっかり守るのよ。」


「マリアさん。ミライ君だって美男子だぞ! 王都の女どもが放っておかないだろうな!」


「大丈夫ですよ。ゲンタおじさん。母さんやアリスより美人の女性はいませんでしたから。」



 母さんはニコニコと笑っていたが、アリスの顔が真っ赤になって頭から湯気が出ていた。



「ミライ! 馬鹿言ってないで、料理ができるまであっちで剣の訓練をしましょ!」

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