第6話 フェンリルのハク登場
オレとアリスは、その日のうちにカエデ村に向かった。歩いて1日ほどの場所だが、今から行くとどこかで野宿する必要がありそうだ。
「ミライ! 急ぐわよ! 早くしないと野宿することになるわよ。」
「わかってる。」
オレとアリスは王都を出発してから途中何もなく、丁度カエデ村と王都の中間地点に差し掛かった。そこで大きな石に座って休んでいる一人の老婆と出会った。こんな場所に老婆が一人でいること自体不自然なのだが、その時は気にもしなかった。
「そこの旅の方。水を持っているかい?」
「はい。」
「申し訳ないが、水を一杯飲ませてくれないかのう?」
オレは老婆に3つある水筒の内の一つをあげた。すると老婆が、卵のようなものを差し出してきた。
「ありがとうな。若いのに今時珍しく親切じゃのう。これを持っていきなされ。きっとお前さんの役に立つと思うぞ。」
オレは老婆から卵のようなものをもらい、そのまま歩き出したがアリスの大声で立ち止まった。
「ミライ! ちょっと待って!」
「どうしたのさ!」
「いないのよ! おばあさんが! どこにもいないのよ!」
見失うはずはない。道の両側には低い草原が広がっているだけだ。見晴らしのいいこの場所で、老婆を見失うはずがないのだ。だが、本当に老婆はいなかった。その瞬間、教会での出来事がオレの頭によぎった。
“まさかね!”
オレは卵のようなものを大切に布でくるんで鞄に入れ先を急いだ。夜も更けて、周りが暗くなってきたので野宿をすることにした。枯れ枝をかき集め、火をつけ、2人で肩を寄せ合って座っている。
「お腹空いた~! ミライ、何か食べるもの持ってないの?」
「出発する前に買った干し肉ならあるけど。」
「しょうがないわね。それで我慢するわ。」
オレとアリスは干し肉を食べて、その後すぐに寝ることにした。といっても、オレは熟睡はしない。何があるかわからないからだ。すると、思った通り焚火に引き付けられたかのように、ゴブリンが集団でやってきた。手にはぼろぼろの剣を持っている。
「起きろ! アリス! ゴブリンだ!」
アリスは目をこすりながら眠そうに目を開いた。すると、ゴブリン達に囲まれていることに気づいた。
「ミライ! ゴブリンに囲まれてるよ! どうするの!」
「オレが倒すからアリスは下がって! 援護を頼む。」
「分かった!」
アリスはまだ攻撃魔法を上手に使えない。オレはアリスを守る位置に立ち、剣を抜いてゴブリンに切りかかった。ゴブリンの動きは意外と素早い。2匹ほど倒したところで、突然右目が痛くなった。オレはその激痛に耐え切れずに膝をついてしまった。
「どうしたの? ミライ! どこかやられたの?」
「違うんだ! 眼が痛いんだ!」
状況はかなりまずい。アリスが光魔法でオレの目を治癒しようとしたが、痛みが治まらない。オレはアリスを庇うようにゴブリン達の前に立ちはだかった。ゴブリン達は容赦なく、オレに切りかかってくる。オレはそれを剣で受け流す。
次の瞬間、オレの鞄が光り始め、中から1匹の子犬が出てきた。その子犬は無鉄砲にもゴブリンに向かっていく。ゴブリンに一瞬のスキができた。オレは、目の痛みをこらえながらゴブリンを切り捨てた。
「でや————!」
「大丈夫? ミライ!」
「大丈夫だ!」
目の痛みが治まったオレは、残ったゴブリン達に切りかかろうとしたが、ゴブリン達は林の中に逃げて行った。ひとまず安心だ。オレが右目を押さえて座り込むと、アリスが近づいてきた。
「ミライ。ちょっと目を見せて!」
オレが目を見せると、アリスが驚いて言った。
「ミライ! あなたの右目、瞳の色が金色になってるんだけど。」
「えっ?!」
“それは魔眼じゃ!”
「えっ?!」
オレは周りを見渡した。だが、ここにはオレとアリスと子犬しかいない。
“何を驚いておる! わしだ!”
オレは子犬を見た。
「お前は何者だ!」
「どうしたの? 急に。」
「いいや、何でもない。」
すると、再び頭の中に声が聞こえた。
“念話だ! わしの声はお前にしか聞こえん。頭の中で答えれべよい。”
オレはアリスを混乱させないように、頭の中に聞こえる声に聞いた。
“お前は何者だ?”
“わしはフェンリルだ! 故あって、しばらくお前と一緒にいることになった。”
“どうして?”
“お前の修行のためだ! あの娘には教会であったことを知られたくないだろう。”
“わかったよ。ところでさっき魔眼って言ったよな?”
“ああ、そうだ。しかもお前の魔眼は特別だ。相手の動きを見極めたり、遠視もできる。それになによりも、相手の魔力もわかるだろうな。”
“そんなことまでできるのか。 でも、オレには魔力が・・・・”
“お前の魔力は封印されていただけだ。教会で解除されただろうが。これからわしが魔法の使い方を教えてやるさ。”
オレはあまりの嬉しさについ声に出してしまった。
「なら、オレは魔法を使えるってことか?」
「どうしたの? ずっと黙っていたと思ったら急に! 頭でもぶつけたの?」
「ごめん。急な出来事で、気が動転してるんだよ。」
急にわけのわからないことを話し出したオレを、アリスが不思議そうに見ていた。
「ところで、この子犬はどうするの?」
「連れて行くさ。オレ達の命の恩人だからな。」
「なら、名前を付けてあげないとね。」
「白い子犬だからハクはどうかな。」
フェンリルが勢いよく尻尾を振って喜んでいる。
「決まりのようね。ハク!よろしくね!」
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