第5話 合格発表
オレとアリスは教会に向かった。教会はお城のようにとても大きく、立派な建物だった。オレとアリスは恐る恐る教会内に入った。教会の中を見渡すと、壁や天井に装飾画が描かれていてすごく立派だった。
「すごいわね。ミライ! この国の神様って女神様だったのね。」
「そうみたいだね。あの像の女神様って、なんかアリスに似てない?」
「私、そんなにきれいじゃないわよ。」
「いや、アリスは奇麗だよ。母さんと同じぐらい美人だと思うよ。」
「何よ急に! 早く参拝するわよ。」
何故かアリスは顔を真っ赤にしながら、プンプンしてオレの手を引っ張った。女神像の近くまで来て、拝もうと片膝をついた瞬間、目の前の景色が変わった。
「やっと来たわね。ミライ。」
目の前の声の主を見ると、そこには絶世の美女がいた。前世で見たミロのビーナスのような美女だ。なによりも、母親のような母性、いや慈愛を感じる。
「オレに何か用でしょうか?」
「あなた、“始まりの場所” に行ったことがあるわよね?」
「何もない真っ白な場所のことですか?」
「そうよ。でも、あなた面白い表現をするのね。あの場所には私達ですらめったに行くことができないのよ。しかも、あのお方に会ったんでしょ?」
「あの方って?! 神様なんですか? “大いなる意思”って言ってましたけど。」
「まっ、いいわ。あなたが知る必要もないしね。」
「それで、もう1度聞きますけど、オレに何か用ですか?」
「そうよ。あなたにお願いがあるのよ。」
「オレにですか?」
「そうよ。あなたによ。この世界は、遠い昔に各種族同士が大きな戦争をしたの。そのために、各種族をそれぞれの大陸に切り離したの。でもね、それって本当の平和とは言えないでしょ。だからね、あなたにこの世界を平和にして欲しいのよ。本当の意味での平和よ。」
「オレがですか?! 無理です。オレはただの平民だし、魔力もないし、そんな力を持ってませんから。」
「あなたに魔力がないのは、私がそうしたからよ。だって、はじめから魔力に頼ったら成長しないでしょ! あなたの魔力は少しずつ解放してあげるわ。魔法の使い方もそのうち教えてあげるから。」
急にオレの身体が光り始めて、体中が熱くなるのを感じた。
「どう? 魔力を感じられるでしょ? でも、その魔力をいきなり開放しないようにね。徐々に慣れていくのよ。」
「一つ聞きたいんですが。」
「何かしら?」
「どうしてオレなんですか?」
「それはあのお方・・・・・」
女神様の声が途中まで聞こえたが、最後の方がよく聞こえなかった。そして、オレの意識が戻ると、不思議なことに全く時間が経過していなかった。
「ミライ。どうしたのよ? なんか顔が青いよ。どこか具合が悪いの?」
「大丈夫だ。帰ろうか?」
「うん。早く帰って、宿で夕食を食べたい。」
「アリスは子どもの頃から、いつも食べてばかりだな。」
「何言ってるの! 成長のためよ!」
「成長ね~?」
オレはアリスの胸を見た。ペッタンコだ。そんなオレの視線に気づいたのか、いきなりアリスが叩いてきた。
「馬鹿! もう知らない!」
アリスは怒りながらもオレの手を放そうとはしない。子どもの頃からだ。どんなに怒ってもオレの手を繋いでいる。
オレとアリスは宿屋に向かった。宿屋の夕食はホーンボアのステーキだった。
「すごく美味しいね。なんか、母さんや父さんに申し訳ないな。」
「そうね。でも、いつか親孝行すればいいんじゃない?」
アリスはオレよりも食べるのが早い。早々と食べ終わって、オレが食べるのを見ている。
「何見てるんだ?」
「ミライって本当にダンテさんとマリアさんの子どもなのかな?」
「どうしたんだ! 急に!」
「だって、ダンテさんもマリアさんも私と同じで髪は茶色よ。どうして、ミライだけ銀髪なのかなって思っただけ。」
「オレの父さんはダンテ。オレの母さんはマリア。それ以外にいないじゃないか!」
「ミライが怒った~!」
「アリスが変なことを言うからだよ。」
「ごめん。でも、・・・・・」
アリスが何か言いたげだったが、オレは無視して部屋に戻った。部屋に戻ると、昼間に屋台のおじさんに言われたことが気になったのか、アリスがもじもじしている。
「どうしたんだ?」
「今まで気にしなかったけど、なんか急に恥ずかしくなった! ねぇ、私が着替える時はあっち向いててね。」
「別にいいけど。」
オレは前世の記憶がある。だから、12歳のアリスを見ても子どものようにしか感じない。だが、アリスはオレのことを同世代の男として見始めたのかもしれない。
「部屋を別にしたほうがいいか?」
「お金がもったいないから。このままでいい。」
アリスが布団に入ってきた。いつもは体をくっつけてくるのに、今日は反対を向いている。やっぱり、恥ずかしいのかもしれない。オレは、わざとふざけて言った。
「アリス姉ちゃん。寂しいから、いつものように手を繋いで寝ようよ。」
すると、アリスはもじもじしながら手を繋いできた。そして、2人はぐっすりと寝た。
翌日、いよいよ合格発表だ。オレとアリスは王立学院に向かった。
「私、302番。ミライは303番よね?」
「そうだよ。掲示板の字が小さくてここからじゃ見えないよ。」
しばらく待っていると掲示板の前が空いてきた。
「ミライ! 怖いけど見に行くよ!」
「ああ。」
オレとアリスは掲示板の前に立ってじっくりと見た。すると、302番はAクラスにあったが、303番が見当たらない。最後まで見ていくと、Dクラスにあった。
「2人とも合格ね!」
「ああ、でもオレはDクラスだけどな。」
「別にクラスなんかいいじゃない。合格できたんだから。」
「それもそうだな。父さんと母さんに報告しないとな。」
王立学院は全寮制だ。オレ達が入学するまでには2週間ある。オレとアリスは、一旦家に帰ることにした。校門まで来たところで、侯爵家の3男ザイルが2人の取り巻きと一緒にいた。
「貴様達も合格したのか?」
「当たり前じゃないの!」
「下民のくせに生意気な奴らだ。だが、覚えておくがいい。入学はできても、卒業できないかもしれないぜ。」
「どうしてよ!」
「途中で退学することになるからさ! 俺様がいるからな。」
ザイルとその取り巻きはその場を立ち去った。
「アリス。あいつらのことは気にしないようにしよう。何かあったら、オレがお前を守るから。絶対に。」
「何言ってるのよ! いつも守ってるのは私の方でしょ!」
言われてみれば、小さいころからオレはアリスに守られてばかりだった気がした。でも、これからはオレが守ると心にそう誓った。
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