第4話 王女キャサリンと食事

 オレとアリスは1泊銀貨5枚の宿屋に泊まっている。当然、部屋は同じだ。オレ達の出身であるカエデ村は王都の隣だが、ここまでは徒歩で1日かかる。だから、試験の前日から合格発表の日までは宿に泊まることにしたのだ。



「ミライ。合格発表まで暇だから、王都見物でもしない?」


「そうだね。明日のことを考えると緊張するしね。」



 オレとアリスは王都見学に出かけた。小さいころから、歩くときは普通に手を繋いでいる。別に恥ずかしいと思ったこともない。姉弟のように育ったオレ達にとっては当たり前の行動だった。



「そこのお若いカップルさん。肉串はどうだい? 美味しいぞ!」



 カップルと言われたことでアリスは真っ赤な顔をして、咄嗟にオレの手を離した。 



「おじさん。オレ達は姉弟だよ。誤解しないでよ。でも、いいや。肉串2本頂戴。」



 オレは買った肉串を1本アリスに渡した。アリスも素直に受け取り、美味しそうに食べている。



「おじさん。この肉はホーンラビット?」


「そうだが、どうしてだ?」


「どこにいるの?」


「ああ、学園の東側に森があるだろう。あそこにいるんだよ。」



 ホーンラビットがいるということは、他にも強力な魔物がいる可能性が高い。だが、王都には兵士達の姿がほとんどない。少し不思議に思った。



「ミライ。不思議そうね。森の近くに王立学園があるでしょう。王立学園の先生も生徒も冒険者並に強いから、定期的に森に討伐に行ってるのよ。」


「どうしてアリスがそんなこと知ってるんだ?」


「あんたが気絶してるときに、ユリウス先生が教えてくれたのよ。あんた、ユリウス先生に気に入られたようよ。」


「そうか~! オレもいつかユリウス先生のように強くなってみせるよ。」


「無理無理! だって、あんた魔力ないじゃん。」


「魔力なんかなくたって、剣1本で強くなれるさ。」



 その後、街を歩きながら服屋、アクセサリー店、武器屋、市場などを見て回った。



「結構回ったね。少しお腹空かない?」


「そうだね。アリスは何食べたい?」


「あそこのオシャレな店に入ってみようよ?」


「じゃあ、行ってみるか。」



 すでにオレとアリスは再び手を繋いで歩いている。アリスは先ほどのことをすっかり忘れているようだった。


 オレとアリスが店の中に入ると、店の中は貴族様ばかりだった。全員の冷たい視線がこちらに向いてくる。



「どうする? アリス。」



 すると、店の奥からキャサリンが現れた。従者達も一緒だ。



「確か、アリスさんとミライ君でしたよね。良かったらこちらに来ませんか?」



さすが、第1王女だ。キャサリンの一言で全員の視線が普通に戻った。オレとアリスはキャサリンの後について店の奥の席に座った。



「この店は王都でも有名な店なのよ。特に、ホットクのコースがおすすめよ。」 



 オレとアリスはキャサリンのおすすめのコースを頼んだ。柔らかい平らなパンの上に、甘いシロップにつけられた果実がのっていた。飲み物は果実水だ。どうやらアリスは十分満足したようだった。



「ミライ君とアリスさんのことを教えていただいてもよろしいですか?」



 何故か、キャサリン王女はオレ達のことに興味を持ったようだ。オレ達はキャサリン王女に子どもの頃からの話をした。



「そうなのね。お二人は姉弟のように育ったのね。でも羨ましいわ。小さいころから寝る時もお風呂に入る時も一緒だったんでしょ。」


 

 キャサリン王女の言葉で、何かに気づいたかのようにアリスの顔が真っ赤になった。



「子どもの時の話だから! 今は別々だからね!」


「当たり前だろう! 何焦ってるんだ? アリス!」


「ミライはいいの! 黙ってて!」


「本当にお二人は仲がいいのね。」


「キャサリン様のことを教えていただけませんか?」



 キャサリン王女は黙り込んでしまった。



「キャサリンでいいわよ。“様”とかいらないわ。」


「なら、オレのこともミライでいいよ。」


「私もアリスでいいわ。」


「なんか嬉しいな。あなた達が初めての友達なのよ。」


「初めての友達?!」


「そうよ。私に近づいてくる人達はいろいろな思惑があるのよね。私にはそれが分かってしまうの。でも、ミライとアリスにはそういう考えが全くないでしょ。だから、初めての友達なのよ。」


「もしかして、キャサリンは“魔眼”持ちなの?」


「ええ。これが邪魔して、いろんな人の嫌なところが見えてしまうの。」


「オレなんか魔力がないから、逆に羨ましいけどね。」


「ミライ!! 馬鹿!!」


「ごめん。キャサリン。苦しんでる人に言う言葉じゃなかったよね。」


「優しいのね。でも、もう大丈夫だから。」



 オシャレなレストランを出た後、オレはふとまだ教会に行ってないことを思い出した。別に本気で神を信仰してるわけでもないので、特段気にしていなかったが、どうしても教会に行きたくなった。



「なあ、アリス。オレ教会に行ってみたいんだけど。」


「ミライが教会に?! どうしたの?」


「何故か行きたいんだよ。アリスは先に宿に帰っていていいよ。」


「馬鹿言ってんじゃないわよ! 一緒に行くに決まってるでしょ!」

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