第3話 入学試験
さらに5年が経過した。オレもアリスも12歳。王立学院に入学する歳だ。オレとアリスは、1年前から入学試験に向けて一生懸命勉強していた。
まず地理だ。この世界はジュピトと呼ばれ、人族の住む大陸ジパンと獣人族の大陸アニム、それにエルフ族とドワーフ族の住む大陸ソフィス。最後に魔族の住む大陸ディアブの4つの大陸がある。
次に貨幣だ。銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、大白金貨の8種類があり、10進法が適用されている。
次に政治だ。各大陸に国がある。僕の住んでいるジパン大陸では、大陸の名前がそのまま国の名前となっている。ジパン王国だ。王都はナシフで、オレ達の住むのはカエデ村。さらに、この国には貴族制度があり、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の貴族様がいる。
最後に魔法だ。魔力のないオレには関係ない話だが、火・水・地・風の基本属性と光・闇・時空などの無属性が体系化されている。普通、人族は1人1属性の魔法が使えるようだ。だが、魔力量によって魔法の威力は異なる。
それ以外に算術と歴史の勉強もしたが、どれも余裕だった。ただ心配な点がある。それは、オレには魔力がないということだ。魔術試験で不合格になる可能性がある。
オレとアリスは2人で王都にある王立学院に入学試験を受けに来ていた。王立学院は王都の東側に位置する。なぜなら、その東側には広大な森が広がっていて、そこにたくさんの魔物が住んでいるからだ。一応、王都は大きな城壁で囲まれているが、王立学院があることで魔物の侵入を防ぐのだ。
「ミライ。いよいよ試験ね。」
「アリス。お前、まさか緊張してるのか?」
「なによ~! だって、周りは貴族様ばかりじゃない!」
「そうだな。失礼のないようにしないとな。でも、なんでオレ達のことをじろじろ見るんだろうな?」
「ミライ! あんた自覚なさすぎよ! あんたのような銀色の髪なんて王族以外にいないんだから。」
「でも、オレはダンテ父さんの子どもだぞ! 王族のはずがないだろう。」
「だからよ!」
オレとアリスは試験会場に入った。確かに貴族の子が多いが、オレ達みたいな平民も結構いる。会場内は緊張からか静まり返っている。その静けさの中、3人の貴族らしき人物がこちらに向かって歩いてきた。その中心にいる人物はひと際ゴージャスな格好をしている。
「おい! お前!」
「オレのことですか?」
「そうだ! お前だ! その髪はどうした? 王族の真似をして染めるなど無礼だぞ!」
「いや。染めてないですよ。これ生まれつきだから。」
「ふざけるな! 騙されんぞ!」
静まり返った試験会場に貴族様の声が響き渡る。すると、従者を2人従えた少女が声をかけてきた。
「ザイル殿。大声でどうしたんです? 失礼ですよ。」
「これはキャサリン第1王女様。お騒がせして申し訳ありません。この者が王族と同じ色に髪を染めているものですから。」
「誤解だから! オレ、別に染めてないし。それに、王族が銀髪なんて知らなかったし。」
「本当です。王女様。このミライは馬鹿ですけど、私と同じカエデ村出身で、小さいころから銀髪でした。」
「あなたはミライっていうのね。私はキャサリンよ。よろしくね。ザイル殿、証拠もなく人を疑うのはおやめになった方がいいですわよ。」
ザイルはこの国のエドガー侯爵家の3男だ。この国の大貴族だが、何かにつけて黒い噂のある貴族だ。ザイルはオレを睨みつけ、二人の腰巾着をつれてその場を後にした。
「助けていただいてありがとうございます。私はミライと同郷のアリスと言います。」
「アリスさんはミライ君の恋人なの?」
アリスは真っ赤な顔をして否定している。
「こ、こ、こいつとは幼馴染で、そんなんじゃないですから。」
「そうなの。」
キャサリンはニコニコしながらその場を後にした。そしていよいよ試験開始だ。座学の試験はオレもアリスも余裕だった。
そして次に剣の試験だ。試験官はこの国の騎士団長のユリウス様だ。一人二人と試験を受けるがまるで相手にならない。半端ない強さだ。キャサリンもアリスも頑張った方だが、それでも1分も持たなかった。ザイルに至っては一瞬で終了だ。やっとオレの番が来た。
「ほう~! 少しは訓練しているようだな。」
「ええ、父が厳しいので、毎日訓練はしてますから。」
「遠慮なく打ち込んで来い。」
「はい。」
オレは力一杯に打ち込んだ。ユリウス様はそれを軽く受け流す。そして、逆にオレに打ち返してくる。普通の生徒ならばここで打ち込まれて終了なのだろうが、オレはユリウス様の攻撃をよんでいた。すかさず、頭の上で木剣をしっかりと受け止めた。
「なるほどな。よく訓練している。それに、その太刀筋、どこかで見たことがあるな。」
オレはユリウス様が見せた一瞬のスキを見逃さない。『縮地』を使って一気に近づき、木剣を打ち込む。間違いなく当たったと思ったが、剣は防がれ、逆に目に見えない速さで胴に剣を当てられた。
「グホッ」
そしてオレはその場で意識を失った。
気が付くと医務室らしき場所に寝かされていた。横を見ると涙目で心配そうにしているアリスがいた。
「ミライ! あんた大丈夫? 馬鹿じゃないの?」
アリスはベッドの横でオレの手を強く握りながら悪態をついてきた。
「ごめん。アリス。心配させたね。」
「別に心配なんかしてないもん。それより、次は魔法の試験よ。」
「魔力のないオレには関係ないけどね。」
オレとアリスは急いで魔法の試験会場に向かった。すると、最初は魔力測定からのようだ。遅れてきたオレとアリス以外はすでに終了しているようだった。最初にアリスが魔力測定をうける。水晶の玉に手をかざし、魔力を流すだけの簡単な作業だ。
アリスが水晶に手をかざして魔力を流すと、水晶は眩しく光った。周りからは喚声が上がった。
「すごいぞ! あの子!」
「なんて魔力なの! それにあの色は光魔法よ!」
試験官の人からも驚かれた。そしていよいよオレの番だ。先ほどの剣の試験のことを見ていた生徒達からは、期待のまなざしで見られている。
オレは水晶の上に手をかざし、魔力が何かわからないので闘気を流し込んだ。だが、水晶は何の反応も示さない。見かねた試験官が声をかけてきた。
「君! 早く魔力を流しなさい!」
「すみません。多分、オレには魔力はないようです。」
「ええ—————————!!!」
会場全体が騒然としている。そして、生徒達が陰口を言っているのが聞こえた。
「あいつ、魔力がないんだってよ。」
「魔力もないのに、どうしてここにいるの?」
「王族なら魔力がないはずがない。やっぱり髪を染めていたな!」
その後、魔法の試験が行われたが、魔力のないオレは見ているだけだった。そして、2日後に合格発表が行われることを言い渡され、オレとアリスは会場を後にした。
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