第14話
学級委員の大吾と珠緒、そして担任の木崎が探しに行った。
十五分ほどして大吾と珠緒が帰って来た。
どうやら見つからなかったらしい。
「給食を急いで食べ終えて、また探しに行く」と珠緒。
「私も行くわ」と若葉は言った。
生徒の何人かも探しに行く、と手を挙げた。
しかし、どこに行ったのだろうかと若葉は思った。
「バックレたんじゃないの、あの三人」
と男子の一人が言った。
文化祭とは言え、学校を抜け出すような三人ではない。何かあったのかもと若葉は少し心配になった。
結局、昼休みが終わり午後の開始チャイムが鳴っても、見つからなかった。
今日は文化祭なのでこれから授業があるわけではない。
昼からの予定は体育館で演劇やコンサートの鑑賞だった。
手の空いている教職員が学校の周囲を、大吾と珠緒、そして若葉達数人は校内を探すことにした。
木崎が三人の自宅に電話をかけた。ひょっとして戻っているかもしれないと思ったからだが、岡田りえの家も山田晴美の家も電話は繋がらなかった。
森麗奈の家には電話が繋がったが、麗奈は帰ってはいなかった。
みんなで一時間ほど探しただろうか。
校内放送もかけ、三人を何度も呼び出したが、姿を見せなかった。トイレ、音楽室や視聴覚室などの特別教室も隈なく見て回ったが、いない。
これ以上探して見つからなかったら警察にという声が教師から聞こえ始めた頃だった。
裏門付近を探していた男性教諭が走りながら「おーい」と叫んでいるのが見えた。
「一人見つかったぞ」
その後ろで半べそかきながら、とぼとぼと小さな女の子が歩いている。
山田晴美だった。
全員が急いで彼女に近づく。
「残りの二人は?」木崎が大声で聞いた。
晴美は泣きながら顔を横に振った。
木崎はもう一度聞く。今度は怒鳴り声に近い。
「岡田と森はどこだ?」
晴美は嗚咽し始めた。
若葉は気付いた。
「山田さん、腕を怪我してるよ」
晴美は肘辺りに擦り傷がいくつもあって血が滲んでいる。
「とにかく、保健室に行こう」
若葉は珠緒と二人で背中を支えるようにして、保健室に晴美を連れて行った。
保健室で白衣を着た養護教員から手当を受けている間も晴美は泣きじゃくっていた。
ただ泣きじゃくるだけで具体的な事は何も話さない。
「何があったんだろうねえ」と年配の養護教員は宥めた。
若葉と珠緒が傍についている。
担任の木崎は保健室の外で待機していた。
男の教師が問い詰めても晴美は怖がるだけだ。
若葉は晴美の小さな手を握った。
少しでも気分を落ち着かせてやりたかった。
珠緒が「岡田さんと森さんが心配だから、何があったか教えて」
と優しく言った。
すると、晴美が小さな声で呟く。
「・・・三問目」
「えっ何?」
と珠緒が聞き返した。
「ゲームの第三ステージ」
「うん。それがどうかしたの?」
「答えの場所」
「そこに二人はいるの?」
晴美は首を横に振る。
「いないの?」
また晴美は首を横に振った。
要を得ない曖昧な態度だった。
第三ステージ、答えの場所は「神社の祠」だった。
校内には小さな祠がある。
学校の敷地内、テニスコートの横にはひと区画、松林が残っている。松林はかつて、その場所が鎮守の森だった名残だった。
三十年前、ここに中学校を新設する際に、やむなくその森を潰した。
規模は小さいが「熊野神社」という立派な名前の神社がそこにはあった。
現在は記念石と小さな祠だけが残っている。
生徒は掃除当番として一度は松林辺りの清掃を任されるので、その事を知っていた。
その祠が第三ステージの解答場所だった。
A組の生徒のうち、そこに辿り着いた者がどれほどいるかわからないが、少なくとも数組はいたはずだった。
しかし、そこで岡田りえ、森麗奈、山田晴美の三人の姿をみかけた者はいなかった。
若葉達が行った時も見なかった。
本当に二人はそこにいるのだろうか。
「先生、祠だって」
廊下で待っていた木崎に珠緒が急いで伝えた。
「よし、わかった」と言って木崎は走り出した。
若葉達も木崎の後を追った。
松林の中は薄暗い。足元は腐葉土なので、若干ふかふかしていて歩きにくかった。
ゲームで来た時は何も思わなかったが、この感触が少し不気味に若葉は感じた。
祠が置いてある場所に行ったがやはり誰もいない。
木崎が「おーい、誰かいるか?」と叫んだ。
「岡田、森」
やっぱり、いないのかと木崎は溜息をついた。
ここは既に探していたのだった。
木崎が引き返そうとした。
「先生、ちょっと待って」
と珠緒が制した。
「声が聞こえる」
「声?」木崎は首を傾げた。
若葉にも、かすかに聞こえた。
「あっち」と珠緒が指さした。
祠のさらに向こうから、うめき声のようなものが聞こえた。
しかし誰の姿も見えない。
木崎が「どこだ」と叫びながら、ゆっくりと祠の向こうまで踏み込んでいった。
そして祠から十メートル離れた場所で見つけた。
二人の女子生徒が穴に落ちていたのだ。
ちょうど、その手前の地面が盛り上がっていて、死角になっていた。
穴は一メートル四方か。深さはけっこうあった。
折り重なるように森麗奈と岡田りえが横たわっていた。
上にいたのは、りえだった。
りえが「助けて」と弱々しい声を出している。
「大丈夫だ、すぐに助ける」
木崎が腹ばいになり、手を伸ばして、まず上になっているりえを引っ張り上げようとした。
りえが顔を歪めながら上体を起こした時に、下になっていた森麗奈の姿が見えた。
それを見て「きゃっ」と珠緒が小さく悲鳴を上げた。
木崎が若葉に向かって叫んだ。
「鮎川、すぐに職員室に行け。救急車を呼ぶんだ」
急げと声を荒げた。
森麗奈の頭部から鮮血が出ているのが見えたのだった。
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