第六話 陸と謎の敵②

「『エクスプロード』!」


 言って、黒いゴブリンへと触れる唯菓。

 次の瞬間。


 ゴブリンを中心に巻き起こる爆炎。


 手加減しているだけあり、先ほどよりも爆発の規模は圧倒的に小さい。

 だがそれでも。


(僕からしたら十分やばい威力なんだけどな)


 少なくとも、陸では逆立ちしたってあんな威力は出せそうにない。


 なんにせよ。

 あれで確実にゴブリンは無力化できたに違いない。


 などなど。

 陸がそんなことを考えたのち、未だ煙が立ち上る唯菓と例のゴブリンの方へと歩いて行こうとした。

 まさに瞬間。


 ドンッ!


 と、陸の背後から聞こえてくる凄まじい音。

 いったい何が起きたのか。


(いや、現実逃避するな……見えていただろ、僕にはっ)


 陸はレベルの概念は有していない。

 しかしそれでも、必死にトレーニングは積んできたのだ。


 スポーツ、学問、武道。

 そして、身体能力向上トレーニングも。


 故に。

 陸の目は確かにあの瞬間——陸の真横を通り抜け、背後へと吹っ飛んでいったものの正体を見ていた。


(そう、あれは……唯菓だ)


 唯菓が吹っ飛ばされ、背後の何かにぶち当たった音だ。

 彼女のレベルは2だが、あの速度で壁に叩きつけられれば無傷で済むわけがない。


(今すぐ駆け寄って助けたい……でも)


 それはできない。

 今、陸の目の前に立ち込めているこの煙の向こう——そこにはレベル2のヒーローすら圧倒する怪物が居るのだから。


(ここで僕までやられたら、唯菓を助けることも無理だ。それにあの怪物に変わってしまった男の人も助けられなく——)


 と、陸がそこまで考えた。

 その直後。


 ボッ!


 と、突如消し飛ぶ煙。

 同時、そこから閃光のような勢いで黒い何かが飛び出してくる。


 間違いない、例のゴブリンだ。

 奴は凄まじい速度で陸へと向かってきている。

 そしてそれを認識したのとほぼ同時。


「っ!」


 陸の目の前にあるのはゴブリンの拳だ。

 早すぎる……だが。


(ちゃんと、見えてる!!)


 陸はそんなゴブリンの拳を紙一重で躱す。

 奴の拳が掠め、頬は裂け血が吹き出すが……それでもなんとか躱すことに成功する。

 となればすることは一つ。


「はぁああああああああっ!!」


 と、陸は隙だらけのゴブリンの頭部へと渾身の蹴撃を放つ。


 ドッ!


 倉庫に響き渡る肉を叩く鈍い音。

 陸の蹴りは間違いなくヒットした。


 けれど効いていない。

 ゴブリンは何事もなかったかのように動き出そうとしている……が。


「まだまだっ!」


 言って、陸はさらに攻撃を続ける。

 蹴りから後ろ回し蹴りに続け、さらに相手の懐に潜り込み、頭部を両手で掴み——。


「しっ!」


 ゴブリンの頭部を引き寄せる勢いを利用しながら、奴のその頭部へと渾身の膝蹴りを叩き込む。


 何度も言うが。

 陸はレベルの概念を有していない。

 だがそれでも。


(ここまでやったら、いくら魔物といえど相応のダメージは受けるはず)


 ただし。

 相手が普通の魔物ならだが。


「グゲ、グゲゲゲゲッ!」


 と、聞こえてくるゴブリンの笑い声。

 直後、ひっくり返る陸の視界。

 同時、身体中に走る痛み。


 いったい何が起きているのか。


 叩きつけられているのだ。

 陸は片足首を握られ、まるで棍棒か何かのように地面へと何度も叩きつけられて——。


「私の幼馴染に何をしているのよ、お前……魔法『ファイア』!」

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