第四話 陸と新進気鋭のヒーロー

 時はあれから少し後。

 場所は日本——陸達が住む街の外れにある倉庫。

 結論から言うと、陸の心配は余計な心配だった。


「ぐぐ、ぐげげげっ!?」


 と、そんな声をあげているのはゴブリンだ。

 奴が苦しそうな声をあげている理由は簡単。


「日本にゴブリン……ファルネールから連れ込んだ奴がいるわね」


 唯菓だ。

 彼女がゴブリンの細首を片手で掴み上げているのだ。

 結果、ゴブリンは自らの体重で首が絞められているわけだ。


「唯菓、大丈夫!?」


「陸?」


 と、陸の言葉に対し横目で返してくる唯菓。

 彼女は彼へとさらに言葉を続けてくる。


「あなたは一般人なんだから、来てはダメよ。というか、待っていてと言ったはずだけれど?」


「まぁ、そうなんだけど——」


「わかってるわ。心配してきてくれたのよね? よくないことだけれど、とても嬉しいわ」


 言って、状況にそぐわない優しげな笑みを浮かべてくる唯菓。

 

 なんにせよ、唯菓は無事だ。

 となれば。


「大丈夫ですか?」


 言って、陸は倉庫の隅に倒れている男性に駆け寄る。

 この人が唯菓の救助対象にして、先ほど聞こえてきた悲鳴の持ち主に違いない。


「……」


 と、無言のまま震えている男性。

 目を見開き、顔色も非常に悪い。


「唯菓! この人、多分精神的にショック受けてる! 早く病院に連れて行って、安心させた方がいいかもしれない!」


「そう、わかったわ。もう少し戦いたかったのだけれど…….それなら仕方ないわね」


 と、陸の言葉に返してくる唯菓。

 続けて、彼女は誰にともなく言う。


「爆ぜなさい……『エクスプロード』」


 直後。

 巻き起こったのは紅蓮の爆炎。


 ゴブリンがまるで爆弾のように破裂したのだ。


(触れているものを爆弾に変える能力『エクスプロード』……相変わらず凄まじいな)


 あれを受けて原型を止めてるやつは、そうそう居ない。

 もし居たとすれば、それこそトップヒーローでなければ相手にしてはならないレベルの敵だ。

 要するに。


「綺麗に爆ぜたわね」


 と、言ってくる唯菓。

 彼女が掴んでいたゴブリンは、綺麗さっぱり爆散していた。


 これで完全に一安心だ。


 などなど。

 陸がそんなことを考えた。

 まさにその瞬間。


「っ……陸、そいつから離れなさい!!」

 


 

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