第三話 陸と幼馴染

「陸、お疲れ様。よかったら一緒に帰らない?」


 と、聞こえてくる少女の声。

 陸が振り向いた先に居たのは。


 一色唯菓いっしきゆいか


 黒く美しい長髪に、色々と発育のいい身体に制服姿。

 陸の幼馴染だ。

 そんな彼女は陸へと、さらに言葉をつづけてくる。


「それ、資格試験の勉強かしら?」


「うん、もうすぐ試験だからね。ヒーローになれない以上、別の方法で正義の味方になれる唯一の方法……頑張らないと」


「あなたなら、ヒーローとしてもやっていけると思うのだけれどね」


「そんなことないし、唯菓は買い被りすぎだよ。それにそもそも、法律でそうなってるんだから仕方ないでしょ?」


「それでも私は陸と一緒にヒーローを目指したかったわ。そうしたらこんな……別の学校に通わなくても済んだのに」


「別の学校って言っても、校舎が違うだけでしょ。同じヒーロー養成学校の敷地内なんだから」


「でも私……陸と一時も離れたくないわ」


 言って、ぐいぐい近づいてくる唯菓。

 だがしかし。


(相変わらずなんだけど、なんだな唯菓にベタベタされても不思議な感じがしないんだよな)


 男女間のドキドキを感じない。

 なんというか、まるで家族とスキンシップをしている気分だ。


(小さい頃から一緒にいるからかな?)


 などなど。

 陸がそんなことを考えた。

 まさにその瞬間。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


 と、どこか遠くから悲鳴のような声が聞こえてくる。

 きっと何かしらの事件があったに違いない。

 こうしては居られない。


 陸はすぐさま、声が聞こえてきた方向へとダッシュしようとする。

 だがしかし。


 ガシッ!


 と、掴まれる陸の手。

 掴んでいるのは唯菓だ。

 彼女はそのまま陸へと言葉を続けてくる。


「私が行くわ、陸はここで待っていて」


 言って、凄まじい速度で声が聞こえた方へとジャンプし、飛んでいってしまう唯菓。


 さすがヒーロー養成学校で一番の成績者にして、新進気鋭のプロヒーローだけある。


(たしかレベルも2になったとかならないとか)


 並大抵の怪人や犯罪者では、唯菓に歯が立たないに違いない。

 けれど。


「待っていてって言われて、素直に待ってられるわけないだろ……」


 なんせ、唯菓は少し前に大怪我したのだ。

 格上の怪人から決して引かず、戦い続けた結果致命傷レベルの怪我で入院した。


 唯菓は強いし諦めない。


 それが怖い。

 熱くなると、正しい状況判断をしてくれないのだ。

 だから。


「放っておけるわけがない!」


 考えたのち。

 陸は唯菓が消えた方へと走り出すのだった。

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