第二話 陸とレベルの概念

 レベルの概念。

 それは異世界ファルネールに行き、冒険者になることによって得られるもの。


 レベルの概念を得ることにより、身体能力は飛躍的に上昇する。

 故に現代日本では、過去とは違い——ヒーローになるためには『レベルの概念の習得』が法律によって義務付けられている。


 その理由は簡単だ。


 レベルの概念は、ヒーロー達の強さの水準を大きく上昇させた。


 しかしその一方。

 レベルの概念を取得した犯罪者という、負の存在も生み出すことになってしまったのだ。


 レベルの概念を取得した犯罪者は強く。

 並大抵のヒーローでは倒せなかった。


 故にヒーローの『レベルの概念の取得』必須が、法律により義務付けられたわけである。


「まぁ、犠牲を出さないためには必要だよな」


 さてさて。

 時は放課後、場所は日本。

 現在、陸は高校から帰っている最中だ。


(あと数日で、ヒーロー協会の事務員になるための資格試験か……気合い入れないとな)


 陸には才能がなかった。

 厳密に言うと、陸にない才能は二つだ。


 もっとも逆に陸は母親譲りのせいか、だいたいのことは平均以上にできた。

 運動も勉強も努力すれば、しただけ伸びた。

 けれど。


 冒険者としての才能がなかった。

 そして、異能力者としての才能も。


(才能が無さすぎて、レベルの概念を何回やっても取得できなかったのは焦ったし、めちゃくちゃショックだったな)


 なんせ、プロヒーローになれないと決定したのだから。

 けれど、あの時に声をかけてくれた父の言う通りだ。


(僕は父さんの姿に憧れたんだ。それは何も、怪人を倒す姿だけに憧れたんじゃない)


 陸の父。

 日向空は最強ヒーローのくせに、落とし物を届けたり。

 足の悪い老人をおぶってあげたり。

 そんなことも数多くしている。


 だからこそかっこいいのだ。


(父さんがあの時言ってくれたみたいに、なにも道は一つじゃない)


 ヒーロー協会の事務員になって、そこからオペレーターを目指して。

 プロヒーローをサポートするのだって、とてもかっこいい職業だ。


 何なら、今の陸の一番の夢でもある。

 故に。


「資格試験に受かるためにも、全力で勉強しないとな」


 などなど。

 陸は再び昨今のヒーロー事情について考えを馳せた。

 まさにその瞬間。


「陸、お疲れ様。よかったら一緒に帰らない?」


 と、背後からそんな少女の声が聞こえてくるのだった。

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