第二部 陸と魔王の章
第一話 英雄の息子と最強の魔王
「くくっ、くははははは! だから、この我がうぬの主人になってやるのじゃ!」
場所は異世界ファルネールの辺境。
ほぼほぼ廃墟のような城——その大広間。
「さぁ、
と、陸へと手を伸ばし言ってくる少女。
銀色の長く美しい髪。同じく銀色のモフモフとした狐尻尾と狐耳。
豊満な肉体に黒いドレスを身に纏ったその少女は——。
「それ! 早くするのじゃ! この手を掴んで、我——最強の魔王であるソフィア様と契約するのじゃ!」
と、そんなことを言ってくる狐娘魔王の少女ソフィア。
陸はそんな彼女へと言う。
「いや、普通に嫌だけど」
「なんでじゃ!?」
「っていうか、それはこっちのセリフだからな!?」
「……はて?」
「『はて?』じゃないからな!? 何の権利があって、僕をここに呼んだんだよ!!」
「あぁ、うぬをファルネールに強制的に召喚したことを怒っているのか! くはははは! 小さい! 奴の息子にしては小さい奴なのじゃ!」
言って、ケラケラ笑い出すソフィア。
なるほど、陸のソフィアへの第一印象としては。
(こいつ、いつか泣かせる!)
だって、陸の怒りは決して小さくない。
今日は大事な資格試験の日なのだ——ヒーロー協会の事務員として働くための。
(思い出したら鬱になってきた、これもう絶対時間に間に合わないぞ)
陸には生まれつき冒険者の才能がなく、レベルの概念を手に入れられなかった。
おまけに持っている異能は、父とは違ってガチの最弱異能——何を食べても腹を壊さない『悪食』。
(それでも父さんみたいな最高のヒーローに少しでも近づきたくて、ヒーロー協会の事務員にって思ったのに……)
その夢も終わりだ。
完全に潰えた。
「はぁ……」
と、陸は片手で額を抑えながら思わずため息を吐いてしまう。
そして、その瞬間になってようやく彼は気がつく。
本当に怒るべきは異世界召喚されたことではないし。
試験を受けられないことでもなかったと。
その理由は簡単。
「ちょ、何だよ……これ!?」
言って、陸は自らの右手を——右腕を、そして身体を凝視する。
あり得ない、こんなのあり得ない。
だって。
「何で僕の身体が骸骨になってるんだよ!?」
陸は正真正銘の人間だ。
なのにこれでは、これじゃあ。
「まるでファルネールの魔物——スケルトンみたいじゃないか!?」
「おぉ! さすが奴の息子、博識なのじゃ!」
と、陸の言葉に対し言ってくるソフィア。
彼女は狐尻尾をぶんぶん振りながら、陸へと言ってくる。
「うぬを召喚した時、何だか悩み事があると読み取れたのでな……この我が解決してやったのじゃ! その昔、うぬの父に助けられた借りを返したのじゃ!」
「いや、何も解決してねぇよ!! 僕を魔物にすることの何が、僕の悩みの解決なんだよ!?」
「はて? だってうぬ、冒険者としてのレベルの概念が得られなくて、ヒーローになるのを諦めたんじゃだろ?」
「っ!」
「どうしてそれを、って顔じゃな! だから、うぬを召喚した時に全て読み取ったのじゃ!」
「でもだからって、どうして僕を魔物に——」
「簡単じゃ! うぬは冒険者としての才能がないから、レベルの概念を得られなかったのじゃ!」
当たり前だ。
そんなのわかりきっている。
けれど、ソフィアの言い回しにはどこか引っかかるところがある。
それは。
「冒険としての? それ以外に何かあるのか?」
と、陸は思わずソフィアへと言う。
すると彼女は陸へと言葉を返してくる。
「我もびっくりしたのじゃ! うぬは世にも珍しい、魔物としての才能がある人間なのじゃ!」
「なっ!?」
「魔王である我が言うのだから間違いないのじゃ! それにだからこそ、こうして我の力でうぬを魔物に変えても、自我を保てているわけじゃしの!」
「え、魔物になったら普通自我消えんの?」
「うむ、当たり前じゃ!」
「……」
まずい。
思わずソフィアにアイアンクローかましそうだ。
などなど。
陸がそんなことを考えていると。
「くははは! そしてここからが本題! 我に感謝するのじゃ、陸よ! うぬは念願のレベルの概念を手に入れられたのじゃ!」
と、聞こえてくるソフィアの声。
彼女は陸へとさらに言葉を続けてくる。
「もっとも冒険者としてではなく、魔物としてのレベルの概念じゃがの!」
「僕が、レベルの概念を?」
「うむ! 人間が『魔物のレベルの概念』を持っているのは、我が知る限りうぬだけじゃ! ほれ、誇るが良いのじゃ! くはははははははっ!」
「……」
レベルの概念はぶっちゃけ嬉しい。
だって、ひょっとしたらこれでワンチャンヒーロー目指せるかもしれないのだから。
そうしたら、夢の続きだって追えるようになれる。
憧れの父の背中に手を伸ばせるかもしれない。
だがしかし。
(こんな魔物の姿じゃ、そもそも僕だって認識してもらえないだろうし……そもそも人間とすら認識されないだろ)
終わった。
もう陸はこのままファルネールでスケルトンとして過ごすしかないのだ。
「あぁ、それとうぬが最弱だと思っている異能『悪食』についてだがの。さすが空の息子だけあって、素晴らしい異能を持っているのじゃ!」
と、何か喋っているソフィア。
彼女はそのまま言葉を続けてくる。
「『悪食』……まさか食らった魔物の力を我が物とし、自身の姿をその魔物に変えるスキルとは……素晴らしいのじゃ!」
だがしかし、陸の耳にはもうそんな彼女の声は入ってこない。
ショックがデカすぎるのだ。
いったいどうしてこんなことになってしまったのか。
「はぁ」
陸は再びため息をついたのち、ここ数日のことに思いを馳せるのだった。
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あとがき
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