第六百十二話 空とあれから③
「ごちそうさまだ! シャーリィはもうお腹いっぱいだ!」
と、言ってくるのはシャーリィだ。
彼女はわーわーきゃーきゃーと、未だやりあっている胡桃とリーシャ。
そんな二人を気にした様子もなく、空へと言葉を続けてくる。
「ハンバーグも美味しかったけど、スパゲティとピザが美味しかった! シャーリィが特に気に入ったのはピザだ! チーズがトロってしてて、とっても美味しいんだ!」
「あはは……そんな気に入ってくれたなら、連れてきたかいがあったよ」
「……? クー、なんだか元気が――っ! 大変だ! シャーリィうっかりしてた! 食べるのに夢中で、今日がなんのために集まった日なのか忘れてた!」
と、あわあわし始めるシャーリィ。
彼女は狐耳をピコピコ空へと言ってくる。
「シャーリィはもう満足したから、ちゃんとクーの話聞く! どんな話でもしっかり聞いて、しっかり理解するんだ! シャーリィは出来る狐だから、シャーリィにお任せなんだ!」
「え、あぁ……そうか、僕達ってそういう名目で集まったんだったね……」
胡桃リーシャ戦争のせいで完全に忘れていた。
なお、二人は今もやりあっている――元気で大変よろしいとしか言えない。
さてさて、シャーリィのおかげで思い出せたが、ようやく本題。
この数週間、いったい何がどうなっているのか。
結論から言うと、世界のありようは大分変わった。
空が作り出してしまった次元の亀裂からは、多くの異世界人が日本へやってきている。
もちろん、その逆もしかりだ。
異世界から来たレベル持ち。
彼等は大半がヒーロー志望であったり、日本の復興を手伝ってくれている。
要するに、ボランティアだ――彼らがその後どうするかは、正直わからない。
ただ一つ、わかっていることもある。
異世界人たちのおかげで、日本が猛烈な速度で復興しているということだ。
こうして喫茶店に集まれるのが、いい例に違いない。
一方、異世界に行ったこの世界の人々はというと。
大半がレベルを取得し、冒険者となっている――なぜか中学生が多いのは謎だが。
「そういえば、クー! やっぱりクーは特別だったな!」
と、言ってくるのはシャーリィだ。
彼女はそのまま空へと言葉を続けてくる。
「こんなに早い速度でレベルが上がるのは、クーだけだった! この世界の住人がレベルを取得しても、クーみたいに上がったりしなかった!」
「たしかに、そういうことになるのかな」
というのも、実は時雨がさっそくレベルを取得したのだ。
彼女曰く、より強くなって多くの人を守りたいそうな。
だがしかし。
時雨は未だレベル1だ。
怪人を倒しまくり、魔物を屠りまくっているがレベルが上がる気配はない。
(僕だけがレベルが上がりやすい理由……何だったんだろ。今後はそれを調べて行くのも面白いかもな)
なんせ現在。
空のレベルはカンストしているのだから。
空が最後に戦った怪人――骸骨竜。
奴を倒し、その数日後に空は宇宙船を叩き落した。
そうしたら、一気にレベルが上がったのだ。
(まさかリーシャが言う通り、僕が本当に勇者だからレベルが上がりやすいなんて……)
あるわけがないか。
と、空が苦笑いしたところで、ふと思う。
勇者といえば。
元魔王のアルハザードは現在、日本で働いている。
彼女は氷菓と共に、次元の亀裂の傍に作られた入国管理所に居る。
なお、彼女達の仕事はというと。
(異世界からこっちに来ようとする魔物を倒したり、こっちから異世界に行こうとする怪人を倒したり……二人は楽しいって言ってたけど、なんだか僕のせいで迷惑かけてるよね)
けれど、空がその事を気にして、彼女達に言うと。
彼女達は決まってこういうのだ。
空にも大変な仕事があるから気にするなと。
(僕の仕事は異世界の王として、この世界の偉い人達と話すくらいけだけど……命の危険がある分、アルハザードさん達の方が大変な気がするんだけどな)
まぁ、空も命を危険にさらす仕事があるといえば、あるのだが。
と、空が考えたその時。
急にざわめきだす店内。
次の瞬間。
「兄さん! 怪人が出ました! 複数人のヒーローが交戦中ですが、正直苦戦してます!」
と、空達のテーブルまで走り寄り、言ってくるのは時雨だ。
彼女はヒーローコスフル装備のまま、空へと続けてくる。
「ヒーロー『アーク・エンジェル』に出動要請が出て――」
「ちょっ! そのヒーローネームやめてってば! そのヒーローネームがつけられてから、色々な場所で僕は『天使くん』って呼ばれるんだよ!?」
「……いいじゃないですか、わたしとお揃いで」
「うっ」
ようやく理解した。
時雨が天使ちゃん――ヒーロー名 『エンジェル』で苦しんでいた気持ちを。
(でも安易すぎる気がするんだよね。エンジェルの兄だから、アーク・エンジェルって……)
まぁ、名前などどうでもいいのだ。
名前がどうであっても、空がするべきことは変わらない。
ヒーローの仕事は――。
「じゃあ、ちょっと僕は行ってくるね。すぐ帰って来ると思うけど、それまでリーシャと胡桃をよろしく」
「シャーリィにお任せだ!」
人々を守ることなのだから。
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あとがき
ここまで読んでくれてありがとうございます!
これにて第一部完結となります!!
すでに第二部は執筆中ですので、引き続き楽しんでくれると嬉しいです!
もしも続きが気になったり、面白かった!
と、思ってくれた方が居ましたら
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よろしくお願いいたします!
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