第三百九話 空はヒーロー協会にお呼ばれされてみる②

 時は初老の男性がやってきてからすぐ。

 現在、空達は彼を前にソファーへと腰掛けていた。


「決まり文句だが、そう硬くならないで聞いて欲しい……それと」


 と、初老の男性は空の方へ視線を向け、微笑みながら言ってくる。


「元非合法ヒーローくんも、今はそのことを追求する気はないから、楽にするといい」


「っ! や、やっぱりばれてたんですか?」


「ほう……カマをかけてみたのだが、やってみるものだね。やはり、キミが学校に現れたバケツの正体か。ショッピングモールもキミだね? 先日の活躍を見てピンときたよ……ひょっとしたら、とね」


「はぁ……」


 と、聞こえてくるのは時雨のため息。

 いかにも「どうして自爆するんですか」とでも言いたそうな顔だ。

 それだけでなく、「ショッピングモールってなんですか」とも言いたそうな顔だ。


 とまぁそれはともかく。

 空は今、この男性が言ったことが非常に気になっていた。

 それは。


「非合法ヒーロー活動を咎めないって、それはどういうことですか?」


「なに、簡単な事だよ。あまり褒められたことではないのだがね」


 と、意地わるそうな笑みを浮かべる男性。

 彼は空へと続けて言ってくる。


「プロのヒーローになってもらいたい。警察でも自衛隊でもなく、協会直属プロヒーローとしてデビューしてもらいたいんだ。先日のムカデ――あの一件は実に見事だった。実力だけで見れば、間違いなくそこに居るエンジェルを超えているだろう」


「当り前です……わたしの兄さんですからね」


 と、ドヤァっとした様子の時雨。

 初老の男性は苦笑した後、空へと更に言ってくる。


「最初に『あまり褒められたことではない』と言った理由はね……うん。こういう場合は率直に言おう。我々はキミが欲しい……例えどんな事をしても、絶対にだ。だから、もしも先ほどの提案を飲まないと言うならば――」


「そんな必要はないですよ」


 きっと、彼は提案を飲まなければ、非合法ヒーローの件で罰する。

 そう言いたかったに違いない。

 要するに脅迫だ。


 だが、正直論外である。

 なぜならば。


「僕は昔からヒーローになりたいと思っていました。警察でも、自衛隊でも、協会直属でも何でもいい。人を助けられるなら、関係ないですから」


「なるほど、エンジェルから聞いていた通りの少年だ」


 と、言ってくる初老の男性。

 彼は空の方へ手を差し出しながら、空へと続けて来る。


「せっかく非合法ヒーローの件が知れたのだから、キミに断られない手段として使ってみたつもりだったのだが……結果的に、こちらの印象を悪くしてしまっただけだったかな」


「いえ、それくらい必要としてくれるのがわかって、逆に嬉しかったです。それに、非合法ヒーローが悪いのは事実ですから」


「ふむ、それで? そろそろ正式な返事を聞きたいのだが」


「これから先、ヒーローとしてよろしくお願いします!」


 言って、空は初老の男性の手を握るのだった。

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