第二百九十四話 空と石の国⑤

 結論からいうと、胡桃が言っていたことが正しかった。


 時は氷菓の発言から数分後。

 空達は穴の終わりまでやってきていた。

 現在、空達の目の前にあるのは――。


「わかってはいたけれど、見てみると随分大きいわねぇ……一般的な競技場の四倍くらいあるんじゃないかしらぁ」


 氷菓が言う通り、それほど巨大なドーム状の空間である。

 さらに。


「あれが一色先輩の言ってた球体? なんていうかあれ、卵にみえない?」


 と、言ってくるのは少し気持ちの悪そうな様子の胡桃。

 だが、彼女がそうなるのも無理はない。


(胡桃に言われて改めて思ったけど、やっぱりあれってどうみても卵だよね)


 その卵のようなものが、まるで地面を覆い尽くすように置かれているのだ。

 正直、空ですら気持ち悪いと思わざるを得ない。

 と、その時。


「兄さん……言わせてもらいますが、これは緊急事態というやつです」


 言ってくるのは時雨である。

 彼女は空の方へやってくると、続けて言ってくる。


「相手が怪人……しかも卵を産んで、これほど増殖しようとしているのなら、もはやわたし達だけの手には終えません」


「でも、逆に今なら卵を割れるんじゃないかな?」


「これほどの卵を産む怪人が近くにいるかもなんですよ? しかも卵が孵化する可能性もあります……いいですか兄さん、これはある意味では日本の危機というやつです」


「そんな――」


「大げさではないですよ。これほど卵が孵化することももちろんですが、これほどの卵を産める怪人です……おそらくかなり強力な個体です。確実にわたしでも勝てないと言えます……つまり、一旦帰還して他のヒーローと合流が最適解です」


「…………」


 空にだって理屈はわかる。

 それに空はまだプロではない。

 こういう場合は、時雨の意見を優先しなければならないことは――。


「兄さん、後ろです!」


 聞こえくる時雨の声。

 空が振り返ると、そこに居たのは――。

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