第二百九十五話 空と想定外の怪人

「兄さん、後ろです!」


 と、言ってくるのは慌てた様子の時雨。

 空がすぐさま背後へ振り返り、魔法 『ブラックスミス』を発動させようとすると。


「はい終わり……たいしたことなかったわぁ」


 そんな声と共に氷漬けの怪人に触れる氷菓が居た。

 彼女は涼しい表情で、空へと言ってくる。


「このまま中身を押しつぶすこともできるけれど、おまえはどうして欲しい?」


「いや……っていうか」


 氷菓が予想以上に頼もしすぎた。

 まさか初の実戦で、怪人を一撃で倒すとは思いもしなかった。

 それにしても。


(卵もそうだけど、怪人自体もグロテスクというか……)


 氷漬けの怪人。

 それは人間くらいの大きさのムカデだった。

 厳密には、ムカデに甲殻のついた人間の様な手足が生えたものと言った感じだ。

 

(あれ、でもなんかおかしいよね、これ)


 この怪人はどこから来たのだろうか。

 周囲は氷菓が異能で索敵しているのだ。

 だからこそ、彼女は空よりも早く動き、ムカデ怪人を撃破できたのだから。


(そうだ、氷菓さんに聞けばこのムカデ怪人が現れた場所がわかるはず)


 と、空がそんなことを考えたその時。

 突如、地面が激しく揺れ始める。


「な、なによこれ!?」


「落ち着いてください、梓さん……それより周囲の観察を!」


 そんな胡桃と時雨の声。

 一方の氷菓はというと。


「空、言いたくないのだけれど、言わせてもうわぁ……あの怪人、出てきたのは地下からなのよ……つまり――おまえなら言わなくてもわかるわよねぇ?」


「えぇ……わかりますよ」


 つまり、氷菓の異能で怪人が探知できなかったのは地下に居たから。

 そして存在する無数の卵。

 しまいにこの振動。


 バカでもわかる。


 空が苦笑いした瞬間。

 空達の周囲の地面から、無数のムカデ怪人が這いだしてくるのだった。

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