第二百九十二話 空と石の国③

 時はあれから数分後。

 現在、空達は件の穴の中を歩いていた。


 穴の中は簡潔に言うと洞窟のようになっており、歩きやすいように整地されてすらいた。

 つまり。


「何者かがここを何度も通っている形跡がありますね……」


 と、空の考えていることを引き継ぐように言ってくる時雨。

 彼女は異能 『プロヴィデンス』で周囲を照らしながら、空の一歩後ろを歩いている。

 空はそんな彼女へと言う。


「それもそうなんだけどさ。この穴って、本当に一人で掘ったのかな?」


「それはわたしも思っていました……犯人は対象を石にする異能のはずです。であるならば、この洞窟を掘ったのは素手ということになる」


「じゃあやっぱり複数犯ってことかな?」


 それならばスカルボーンがああして、石になっていたことにも説明がつく。


 例えばスカルボーンは全員で三十人いたとする。

 その中の九人が残り二十一人を異能を使って倒した。

 仕上げに九人の中の一人が、二十一人を石にしたというわけである。


 一人で二十一人倒したと考えるより、よほど現実的である。

 もっとも、空のようにレベルの概念を持っていれば、話はべつだが……。

 まぁそれはありえない。


「複数犯……その可能性が高いでしょうね」


 と、顎に手をやり考えごとモードの時雨。

 彼女はその恰好のまま、空へと続けて言ってくる。


「ですがそうなると、少なくとも強力な異能を持つ能力者が二人いることになります」


「『相手を石にする能力者』と、『土を自在に操る能力者』ってことかな?」


「その通りです。いくら複数人とはいえ、この大穴を短期間で素手で掘ったとは思えませんから……しかし、この状況だと後者の能力者の存在はまずいかもしれません」


 たしかに。

 土を操れるのなら、空達は現在絶賛敵の腹の中ということになる。

 いつ周囲の壁が迫ってきて、ぺちゃんこにされてもおかしくない。


(でも、仮にそうなっても僕と胡桃でなんとかできそうだけど……)


 と、空が考えたその時。


「ねぇ、あんた達さ。さっきから相手が異能力者前提で話してるけど、本当にそうなの?」


 胡桃がそんなことを言ってくるのだった。

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