第二百九十一話 空と石の国②

「なにか嫌な予感がします」


 と、時雨がいってきたその時。


「空! ちょっとこれ見なさいよ!」


 聞こえてくるのは、少し離れた場所にいる胡桃の声。

 空が他二人も集めそちらに行くと、彼女は床を指さし続けてくる。


「ねぇ、なんだかこれ、何かを隠しているように見えない?」


「うん、僕にもそう見える」


 胡桃が指さす先にあったのは、ビニールである。

 それも四つ端に石が結び付けられたビニールだ。

 きっと、風などでずれないようにと、注意が払われたものに違いない。


「氷菓さん、お願いできますか?」


「いい人選ねぇ……」



 言って、氷菓はビニールシートへと手を翳す。

すると、ひとりでに浮遊し始めるビニールシート――氷菓が異能でシートの下に氷の粒を滑り込ませ、粒を持ち上げることでシートを持ちあげているのだ。


 結果、ずらされたビニールシートの下から現れたのは。


「地下へと続く大きな穴ですか……まぁお決まりと言えばお決まりですね」


 時雨の言う通りだ。

 しかも、その穴は最初からあったものには見えない。

 すなわち、何者かが……いや、この石化事件の犯人が掘ったと考えられる。


「どうしますか兄さん? わたしはこういう場合、中に入るのは危険なのでやめた方がいいと判断しますが」


 時雨の言う通りだ。

 ここから先は危険な予感がする。

 となれば。


「ここから先は僕一人で――」


「あんたバカじゃないの!」


 バシンっと叩かれる空の背中。

 見れば、胡桃がキッとした瞳で空を睨んでいる。

 そんな彼女は空へと続けて言ってくる。


「危険だとわかっていて、一人で行かせると思う? それにこれは天使班で当たっている任務なんだからね!」


「いや、そうだけど……」


「梓さんの意見に賛成ですね……状況は微妙なところです。班長である兄さんが行くと言うなら、わたしはついて行きますよ」


「この面子で危険もくそもないと思うのだけれど……まぁおまえを一人で行かせるのが論外というのはたしかねぇ」


 と、空にたいし言ってくるのは時雨と氷菓である。

 ここまで言われてしまえば、さすがにこれ以上ぐだぐだするわけにはいかない。


「わかった、行こう。この先にそんな危険な人物が居るとしたら、放っておくわけにはいかない」


 もしも他のヒーローの到着を待っている内に、そいつが逃げてしまえばどうなるか。

 そんなのは簡単だ――周囲の一般人を危険にさらすことになる。

 それは許されない、許せない。


「氷菓さん、引き続き索敵は任せましたよ」


「任されたわぁ」


 と、言ってくる氷菓。

 空は続けてみんなへと言うのだった。


「行こう……危なくなったら、僕が絶対に守るから」

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