第百六十一話 リーシャは逃走中②

 時はあれから数分後。

 現在、リーシャは暗い森の中を一人走っていた。


 リーシャが半ば置き去りにした騎士団員は、とっくに全滅してしまったに違ない。

 なぜならば。


「あ……っ!?」


 突如、リーシャの背に当たる小石。

 リーシャを追いかけてくるゴブリンが、彼女に投げつけたものだ。


 そう、リーシャの後ろからは、大量の魔物が追いかけてきているのだ。

 それでも魔物が追いついてこないのは、リーシャの足が速いからではない。


 リーシャは遊ばれているのだ。

 追い回され、小石をぶつけられ、力尽きるまで走らされているのだ。


 リーシャだって、そんなことはとっくに気が付いている。

 けれど、だからといって止まることはできない。


(もしもここでわたしが止まれば、わたしは殺されてしまいます。そうなれば、わたしなんかのために死んでしまったみんなが……っ)


 リーシャなんかを聖女と信じてくれたみんな。

 そんな彼等の死を、無駄にすることだけは出来ない。

 と、その時。


 リーシャの視界が突如揺れる。


「っ!?」


 いったい何が起きたのか。

 気が付くと、リーシャは地面へと倒れていた。

 きっと、後頭部に石を受けてしまったに違いない。


(早く、早く……立ち上がら、ないと!)


 リーシャは痛みを堪え、なんとか起き上がる。

 しかし。


「ひ……っ!」


 そこに絶望が待っていた。

 なぜならば、リーシャの視線の先に居たのはゴブリンやオークなど、数々の魔物。

 それは当然、リーシャの周囲も居る。


 もう逃げ場はない。

 周りを囲まれたこの状況、もはやリーシャを待ち受けるものは決まりきっている。

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