第百六十二話 リーシャは襲われてみる

「ひ……っ!」


 と、リーシャは起き上がるも、すぐに尻もちをついてしまう。

 なんとも情けないことだが、どうしても恐怖が勝るのだ。


 ゴブリン、オーク、オーガ。

 数々の魔物達が徐々に距離を詰めてくる現状。

 回復魔法しか使えないリーシャでは、出来ることはなにもない。


「っ!」


 と、ここでリーシャはとある事に思い至る。

 それはリーシャが使えると言われているもう一つの魔法。


 必要な時以外、決して発動しないその魔法。

 実際、今まで――騎士団が襲われた時ですら反応しなかったその魔法。


(もし、わたしがここで死ぬのなら、使えるタイミングはもう――!)


 今以外考えられない。

 どうせ死ぬならば、自分が幼少の時から受け継いだ魔法を試してから死にたい。


 と、リーシャは半ばそんな気持ちで起きあがり、手を合わせる。

 使う魔法はただ一つ――。


「異界の勇者よ、我と我の世界をお救いください。今、この世界は闇に包まれようとしているのです……どうか、お力をおかしください」


 発動せずとも練習だけはしてきた詠唱。

 そして、もはや慣れ親しんだ魔力の流れ。

 リーシャはその感覚に身を委ねながら、祈るように続けて言うのだった。


「聖天魔法『ブレイバー』!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る