第百六十話 リーシャは逃走中

 襲ってきた魔物の量は予想を超えていた。

 無論、騎士団も精鋭を中心に百人を超える規模のものではあった。

 しかし。


「り、リーシャ様……お逃げください、早く!」


 と、言ってくる騎士団長。

 リーシャはそんな彼に、「自分一人で逃げることは出来ない」と言おうとする。

 けれど、それよりもはやく。


 リーシャの目の前で、騎士団長の首が飛ぶ。


 騎士団長だけではない。

 他の騎士団員や、リーシャの付き人も次々に殺されている。


「あ、あぅ……」


 リーシャは動けなかった。

 例え聖女と呼ばれようと、リーシャは回復魔法が使えるだけの人間。

 戦った事もなければ、この至近距離で魔物と相対したこともないのだから。


「げげ、げげげげげ!」


 と、徐々に近づいて来るゴブリン。

 その時。


「リーシャ様、逃げてください! 自分の役目を忘れないで! あなたはここで死んでは駄目だ! じゃないと、みんなの死が無駄に――!」


 聞こえてくる騎士団員の声。

 それがキッカケとなり、リーシャの身体はようやく動いてくれる。


「ごめ……ごめん、なさいっ!」


 と、リーシャは残り数名となった騎士団員に背を向け、森の中へ一人走るのだった。

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