第百五十九話 リーシャは移動中
時は昼を少し過ぎたころ。
現在、リーシャは防壁の街 『エクセリオン』へ帰る馬車の中に居た。
「リーシャ様、エクセリオンへはまだ数日かかりますので、途中に宿を取らせていただいてよろしいでしょうか?」
と、言ってくるのは、馬車の周囲に居る騎士団――その団長である。
彼はリーシャへ続けて言ってくる。
「もちろん、宿屋は貸し切りにさせていただきます。リーシャ様には不便がないよう、最高級の部屋を――」
「あ、あの! わたしは馬車の中で大丈夫です。貸し切りにしたら、他の方にも迷惑でしょうし……わたしのことは気にしないでください!」
「で、ですがそういうわけには――」
「わたしよりもあなた達です。わたしの護衛のために、お疲れでしょう? わたしは気にせず、どうかしっかり休んでください――宿屋は私などより、あなた達が使うべきです」
「はぁ……変わりませんな、聖女様は」
「聖女様なんて呼ばないでください! は、恥ずかしいです……」
と、リーシャの反応が面白かったに違いない。
騎士団長は「ははははっ」と声を上げ、馬車から離れていってしまう。
彼は……いや、リーシャの周りの人は昔からこうだ。
いずれ勇者を見出す聖女。
勇者に至高の力を授け、共に魔王を打ち倒すもの。
リーシャには幼い時から、そんな予言が下されていた。
そのせいで、皆がリーシャを聖女様と崇めてくるのだ。
しかし。
(やっぱり恥ずかしいです。それにわたしは回復魔法以外、特に力はありません。勇者様を未だ見いだせないわたしに、価値なんて……)
やはり、先ほどの宿屋の件はもう一度ハッキリと言った方がいいに違いない。
となれば、善は急げである。
「あ、あの! 騎士様! 騎士団長様はどちらに? お伝えしたい事があるのですが」
「リーシャ様、いけませんよ。 馬車から顔をだして、万が一の事があった――おぶっ」
と、リーシャの目の前で爆ぜる騎士団員の顔。
その直後。
「奇襲だ! 魔物共に包囲されてるぞ! 聖女様を守れ!」
そんな声が聞こえてくるのだった。
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