第百四十七話 空と胡桃は買い物してみる②
「思ったより時間かかっちゃったな!」
けれど、あとはこれを渡して誠心誠意謝れば、胡桃も許してくれるはず。
と、空が速足で胡桃が待っている店の前に戻ると。
「ちょっと! 離しなさいよね!」
「なんだよ、いいじゃねぇかよ? ちょっと一緒に見て回ろうぜ?」
なにやら揉めている様子の胡桃とチャラそうな男。
というかあれ、露骨にナンパだ。
(胡桃は外見だけは可愛いからな。モテるのは当たり前か……でも、胡桃露骨に嫌がってるし、止めに入った方がいいよね)
と、空は揉めている二人に近づいていく。
するとチャラそうな男が「なんだてめぇ?」と、空をすぐさま睨み付けてくる。
一方の胡桃は――。
「あ、空♪」
と、なにやら嬉しそうな表情。
空には彼女が嬉しそうな理由はわからない。
けれど、今するべきことは決まっている。
「あの……その子、僕の彼女なんですけど、知り合いですか?」
「は? っ……なんだよ、彼氏持ちかよ! マジで時間の無駄したわ!」
と、チャラそうな男は胡桃の手を放し、どこかへ行ってしまう。
ネットの情報通りである。
(女性が絡まれた時、一番穏便に済ませられる確率が高い方法が効いた! よかった、これは嘘じゃなくて)
空がそんな事を考えていると。
くいくいっと、引かれる空の裾。
「く、くう……えと、あの……」
胡桃である。
彼女はかつてないほど、顔を真っ赤にさせて空へと言ってくる。
「あ、あた……あたあた……あたたたたたた、あた!」
「胡桃、拳法家になったの?」
「ち、違うわよ! このバカ! あ、あた、あたしは空の何なのか聞きたかっただけ! あんた、あたしの事をいったい何だと思って……その、か、かの……っ!」
と、うつむいてしまう胡桃。
だが、空だってここまで言われれば理解する。
(あぁ、なんかおかしいと思ったら、勝手に彼女って言った事を怒ってるのか)
嫌いな男から彼女呼ばわりされれば、さぞ気分が悪いに違いない。
空はそう判断し、胡桃へと言う。
「胡桃ごめん、さっきは勝手に彼女呼ばわりして!」
「へ……?」
「胡桃を穏便かつ安全に助けようとして、仕方なくいったんだ。もし気分を害したなら――」
「いい……鈍感なのはもう知ってるし、助けてくれようとしたなら、いい」
と、やはりまだ不機嫌そう胡桃。
空はそこで先ほど、彼女の為に手に入れたものを差し出す。
「あ、そうだ。胡桃、これ」
「なに、これ?」
と、ひょこりと首を傾げる胡桃。
空はそんな彼女へと言う。
「怒らせちゃったお詫びって言ったらあれだけど、さっき買ってきたんだ。気に入るかわからないけど、クルミのペンダント」
「クルミのペンダントって、あたしが胡桃だから……ぷっ、あは……あははははっ!」
「えーっと……」
「あんたセンス最悪ね! でもいいわ! 助けてくれたし、特別に許してあげるんだからね!」
と、胡桃は空の手からペンダントが入った袋を奪い取る。
そして、彼女は彼へ笑顔で言ってくるのだった。
「大切にするわ、空……ありがとう♪」
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