第百話 胡桃は悩んでみる。

 現在、胡桃は近場のシェルターに向けて走っていた。

 すれ違う生徒は当然いない。

 そして、校門から侵入したという怪人にも遭遇しない。


(きっと、他のヒーロー達も来てくれてるんだ。そうじゃなければ、最大戦力の時雨があたしなんかのところに来てくれるわけないんだから……)


「あたし、なんか?」


 と、胡桃はそこで足を止める。

 そして、そのまま胡桃は考える。


(あたしなんか……って、何言ってるんだろう、あたし)


 いったいいつから胡桃は、そんなに卑屈になってしまったのか。

 わかりきっている。


 怪人のせいだ。

 唯花を奪ったのも怪人。

 胡桃からプライドを奪ったのを怪人。


 怪人。

 怪人怪人。

 怪人怪人怪人。


 なにもかも全て怪人のせいだ。

 怪人さえいなければ、胡桃はなにもかもうまく行っていたのだ。


「だめだ……やっぱり逃げちゃだめなんだから」


 もしも、今怪人から逃げれば二度と怪人に立ち向かえない。

 失ったプライドを取り戻す機会は、永遠に訪れない。


 胡桃の中には漠然とそんな予感のみがあった。

 故に。


「戦えなくてもいい……せめて、時雨の戦いを見届けるくらいしないと!」


 胡桃は時雨のもとへと引き返すのだった。

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