第九十九話 胡桃と白銀の天使

 降り注ぐ、無数の光の剣。

 まるで聖なる審判の様な光景の中、それは現れた。


「…………」


 顔含め、身体全体を覆う白銀の騎士甲冑。

 背中から六枚の光の羽を生やし、右手に光の剣。

 周囲に無数の光の粒子を漂わせ、その人物は歩いて来る。


 その人物は呆然としている胡桃へと言ってくる。


「もう大丈夫ですよ……あとはこの白銀ヒーローに任せてください」


「し、ぐれ?」


「むぅ……梓さん、今はお仕事の時間です。本名で呼ばれるのは困ります」


 などと、時雨は表情の見えない甲冑の下から言ってくる。

 胡桃はそんな彼女の言葉を聞き、ようやく認識する。


 ヒーローだ。

 胡桃の憧れ、白銀ヒーロー『エンジェル』が来てくれたのだ。

 そんなヒーローは胡桃へと言ってくる。


「というわけで、私はお仕事の時間ですので……梓さんは早く逃げてください」


「で、でもあたしは――」


「まだ戦えるともでも言う気ですか? その震えた身体で……怪人を舐めないでください」


「っ……」


 わかっている。

 時雨が言っていることはただしい。


(体が震えているどころか、今のあたしは『イージス』をまともにコントロールすらできなくなりつつある)


 このままここに居ても邪魔なだけだ。

 故に胡桃は時雨へと声をかける。


「頑張って、ください……」


「頑張りますよ。ヒーローは守るために全力を出すお仕事なのですから」


 胡桃はそんな声を背後に、その場から逃げ出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る