第九十八話 胡桃は怪人と戦ってみる②
怖い。
怖い怖い。
怖い怖い怖い。
「あ……う、ぁ」
最初は大丈夫だった。
けれど、怪人を怪人だと認識すればするほど、胡桃の恐怖は増していく。
もはや、今の胡桃は『イージス』の中で頭を抱え、縮こまっている状況だった。
自ら怪人のところへ行き、まともに戦う前から動けなくなる。
見る人が見れば大笑いするに違いない。
情けなさの極致だ。
(わかってる……わかってるのに、体はまともに動いてくれない……っ)
胡桃がそこまで考えたその時。
怪人の攻撃が激しさを増す。
これまで以上に凄まじい音をたて、『イージス』を全方位から打ち付けて来たのだ。
盾の中に響く音。
それは余計に胡桃の恐怖心を煽りたてる。
だが。
(だめだ……このままじゃ、本当に駄目になる。た、戦わないと……唯花を助けられるヒーローにならないと……)
胡桃はそうしなければ、生きている価値がない。
と、彼女はその一念で制御不能の恐怖心。それからくる吐き気と震えを押さえつける。
怖いのは変わらない。
けれど、これはそういう問題ではないのだ。
(あ、あたしは……ヒーロになるんだから。こ、こんなところで、怖がってなんか……!)
ついに、胡桃は立ち上がる。
そして、彼女はそのまま怪人を目視する。
直後。
「う……っ」
再び襲ってくる猛烈な吐き気。
立っていられないほどの猛烈な眩暈。
それでも胡桃は怪人を睨み付ける。
(あ、あたしは……こんなところで止まってる暇なんてないのよ……っ!)
胡桃には唯花という大目標の他にも、いくつも小さな目標があるのだ。
その小さな目標の中で、今一番大事なのは。
「あたしは空にだけは……置いて行かれるわけにはいかないんだから!」
言って、胡桃は怪人の攻撃の瞬間に『イージス』を押し出す。
すると、怪人の触手鎌はパリィを受けたかのように隙を晒す。
狙うならここしかない。
胡桃は右手に力を込め、攻撃へと移ろうとする。
だが。
「なっ!?」
聞こえてくる『イージス』が砕け散る音。
見ればもう片方の触手鎌が、不可視の盾を破壊していたのだ。
この瞬間、胡桃は理解する。
(そっか……不安定な精神状態で、複雑な操作をしようとしたから、強度が下がっちゃったんだ……)
そのせいで『イージス』は、今まで防げていた攻撃を防げなくなった。
と、胡桃がそんな事を考えている間にも、触手鎌は胡桃へと襲いかかって来る。
「あはは……あたし、最後までバカみたい」
胡桃が死を覚悟した瞬間だった。
降り注ぐ無数の光の剣によって、触手鎌が切断されたのは。
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