第七十八話 空と梓と風紀の乱れ

「あたしはあんたが行方不明って騒がれてる間に、とても大事なこと気が付いたの!」


 と、言ってくるのは胡桃である。

 彼女は真面目な表情で続けてくる。


「あたしには覚悟が、圧倒的に足りなかったって」


「覚悟って……奴隷になる?」


「まぁ、そんなもんよ。今回、あんたが行方不明になったとき、あたしはすぐにピンときたんだから――空はきっと、異世界でなにかあったんだって」


「それでそこから、奴隷になる覚悟にどうつながるの?」


「恋愛と一緒! 告白しないまま相手が死んじゃったら嫌でしょ? あたしは真の奴隷になる前に、あんたに死なれるとすごく悲しいの!」


 不純だ。

 動機がものすごく不純だけど、心配してくれているのは嬉しい。

 空がなんとも言えない表情をしていると、胡桃は続けてくる。


「だから、あたしはもう自分に嘘をつかないことにしたの!」


「それが同居? 正直、どう繋がってそうなるか、未だに理解できないんだけど」


「はぁ? あんたバカじゃないの? つまり後悔しないように、あたしは全力で奴隷として生活したい……そのためには、常にあんたの傍にいる必要があるの!」


 ごめんやっぱり意味がわからない。

 胡桃はいったい何がいいたいのだろうか。

 空が首を傾げていると、彼女はさらに続けてくる。


「あんたにこ、恋をして真の奴隷になるためには、ずっとあんたの傍に居た方がいいと思っただけ! その方があんたを好きなる機会も増えるし、あんたがあたしを好きなる機会も増えるでしょ?」


「…………」


「…………」


「…………」


「なんで黙るのよ! っ……もうこの話はおしまい、やめ!」


「ぶっ――ちょ、クッションで顔抑えるのやめてっ!」


 と、空が胡桃に殺害されかけたその時。


「話は聞かせてもらったわ」


 聞こえてくる冷たい少女の声。

 いったいいつからそこに居たのか。

 いったいどうやって部屋に入ってきたのか。


「男女で同居、風紀の乱れね。はっきり言って空、おまえにはガッカリしたわぁ……風紀委員として自覚が足りないようね」


 そこには銀糸のような長髪をなびかせる少女。

 風紀委員長――一色氷菓いっしきひょうかが立っていた。

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