第六十四話 空と魔眼の代償

「っ――」


 空が最初に感じたのは、左目が燃えるような感覚。

 次第に左目はずきずきと痛みはじめ、もはや目を開いて居られる状態ではない

なんせ、左目からぽたぽたと血すら流れているのだから。


 次に感じたもの。

 これが現状、空を一番苦しめているものだ。

 それは。


 身体を引き裂かれるような痛みだ。

 体中の筋肉から聞こえてくる異音――場所によって裂け、血を流している個所すらある。


(魔眼『王の左目』はいわゆる身体強化能力……っ。一時的とはいえ、ダンジョンスパイダーを瞬殺できる身体能力になったその反動が、いまいっきに襲って来てる、のか?)


 空はそんなことを考えながら、ダンジョンの壁に寄りかかる。

 けれど、もはや立っていられる状況ではない。


「あっ……ぐ」


 想像を絶する痛み。

 こうしている間にも、筋線維がぶちぶちと切れ、皮膚も裂けて言っているのがわかる。

 と、その時。


 ふっと、唐突に体中の痛みが消える。


 空は理解している。

 それは決して、痛みが引いてきたとかそういったものでないことを。

 これは単に――。


(だめ、だ……ここで気絶するのは、危険――)


 空は全力で目を開いていようとする。

 けれど、そんな彼の努力空しく。


「…………」


 空の身体は崩れ落ちるのだった。

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