第六十三話 空と魔眼の力②

 空が駆け出し、通路を曲がった先。

 そこに居たのは――。


「ダンジョンスパイダー……!」


 見た目はケイブスパイダーの色違い。

 けれど、シャーリィ曰くその力はまさに桁違い。

 これまでに多くの冒険者を殺してきている魔物とのこと。


 本来ならばまだ戦いたくない。

 しかし。


(道がこいつを倒した先にしかないなら!)


 空はこいつを今この場で越えるしかない。

 そうしなければ、シャーリィどころか自分の命も救えない。


「だから僕に力を貸せ……魔眼『王の左目』!」


 空はダンジョンスパイダーが交戦状態に入る前に、その力を解放。

 すると。


「っ!」


 魔眼の技能説明で、その効力は知っていた。

 けれど、それでもなお驚くほどに周囲が遅くなったのだ――まるで時間が止まっているかのように。


 空が魔眼を発動してから、ダンジョンスパイダーは全く動いていない。

 もうすぐ空の剣の間合いに入るにもかかわらずだ。


(まさか罠? 僕を引きつけようとしてるのか……いや、でもこれは)


 空はそんなことを考えながらも、ダンジョンスパイダーへと更に接近。

 その距離はもはや、手がダンジョンスパイダーへ届きそうなほどだ。

 それでも奴はまだ動かない。


(罠……じゃないのか?)


 空は疑心暗鬼になりながらも両手剣を上段に構える。

 ダンジョンスパイダーはまだ動かない。


 空は続けて両手剣を振り下ろす。

 それでもダンジョンスパイダーは動かない。

 と、次の瞬間。


(嘘……だろ)


 空の両手剣はいともたやすく、ダンジョンスパイダーの頭部を両断。

 続く連撃で、ダンジョンスパイダーの胴体数か所も両断。


「こんな……簡単に?」


 ダンジョンスパイダーは最後まで動く気配を見せず絶命。

 空は念のため、死体の確認もするがやはりどう見ても死んでいる。


「たまたま弱い個体だった? それとも――」


 魔眼『王の左目』。

 シャーリィが言うところのレア技能が、予想以上に規格外だったのか。

 空がゆっくりと左手で、左目付近を抑えたその時。


「っ――」


 空の全身をとんでもない激痛が襲ったのだった。

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