第六十話 空と初めての冒険②

「…………」


「…………」


 続く沈黙。

 現在、空とシャーリィは逃げ込んだ部屋にて、全力で息を殺している最中だ。


 そのまましばらくすると、魔物の気配は遠ざかっていくのが感じられる。

 現にシャーリィも――。


「もう大丈夫だ……なんとか逃げられた」


 と、言って来てくれる。

 空はそれを聞いたのち、シャーリィへと言う。


「トラップがない部屋でよかったね。っていうか、このあといきなりトラップが発動するとかないよね?」


「それはない……この部屋に入ってからしばらく経ってるのに、トラップが何も発動してないから……ここは、安全だ」


「シャーリィ、やっぱり足つらい?」


「辛くない! クーがおぶってくれるから、シャーリィは全然辛くない!」


「…………」


 シャーリィは明らかに強がっている。

 空はそれが見抜けないほど、馬鹿ではないつもりだ。


(出血とかはないから、命にかかわるってことはないはず。でも、早く出てなんとかしてあげないと。いくらなんでも、ずっとこのままは――)


「クー……あれ、あそこになにかある」


 と、空の思考を断ち切り、聞こえてくるシャーリィの声。

 空はそんな彼女が指さす方へ視線をやる。するとそこにあったのは、台座に乗った古ぼけた技能書。


 正直、露骨に罠っぽい。


 けれど、シャーリィはそんな空の心を読んだかのように、彼へと言ってくる。


「クー、そのトラップはたいしたことない……チャンスだ」


「どういうこと? 発動する罠がたいしたことないってこと?」


「違う……そのトラップは発動させないで、宝――上の技能書だけ手に入れる方法があるんだ。クー、なんでもいいから技能書は持ってるか?」


「持ってない。それに、僕は《道具箱》に収納しちゃってるから、持ってても取り出せなかったと思う」


「じゃあ、仕方ないな。クー、おろしてくれ。んしょ……っと」


 と、シャーリィは空の背から降りると、靴を片方だけ脱ぎ、なにやら細工をし始める。

 その後、彼女はそれを空へと渡しながら言ってくる。


「クー、台座の技能書を取るのとほぼ同時に、この靴を台座に置くんだ」


「えっと、これは?」


「あの台座は重さで発動する有名なトラップなんだ。だから、技能書と似た重さのものを台座に置けば、絶対に発動しない」


 なるほど。

 それでシャーリィは靴の中に、周囲に落ちている砂などを入れていたわけだ。

 これにより、靴と技能書の重さをだいたい同じにしたのだ。


「わかった。せっかくだからやってみるよ」


 それに、この場で技能書を手に入れることは戦力アップにも繋がる。

 多少は危ないかもしれないが、十分にやる価値はある。


「…………」


 空はシャーリィから受け取った靴を片手に、ゆっくりと技能書へ手を伸ばすのだった。

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