第四十九話 空は伸び悩んでみる②

「クウさん! クウさん! 聞いてくださいよ! このギルドになんと……英雄アルハザードさんが来てくれるんですよ!」


 と、言ってくるのは受付のお姉さんである。

 彼女はカウンターをばんばん叩きながら、続けて空へと言ってくる。


「あ、来てくれると言っても他の街へ行く途中、このギルドで一泊するだけなんですけど! それでもこれはすごいことですよ! どうしましょう! どうしますかクウさん!」


「…………」


「英雄アルハザードさんですよ! 伝説の存在、唯一のレベル6にして最強の冒険者! くぅううう~~~! パーティです! 歓迎会の準備をしないと!」


「あの……アルハザードさんのことはわかったんで、そろそろクエストを……」


「あ、そうでした! そうでしたね、クウさん! クエスト、クエスト! いやぁ、ついテンションが上がって、我を忘れてしまいました!」


 と、お姉さんは「テヘッ」とでも言いそうな顔をしてくる。

 可愛いか可愛くないかで言えば、可愛い仕草ではある。

 だがしかし。


 クエストを受けようとしただけで、三十分続けられたアルハザードさんの話。


 棒立ちして聞いていた空の足は痺れ。

 シャーリィは野生に帰ったかのように、すみっこで丸まって眠ってしまっている――あれでは完全に狐だ。


 それがある以上、空は安易にお姉さんを可愛いとは思えない。

 むしろ、長話してくるお姉さん恐ろしい。


 と、空がそんなことを考えていると。


「ダンジョンでスケルトン退治のクエストと、発光キノコの採取……この二つのクエストで間違いないですね?」


 と、お姉さんはようやく仕事をしてくれる。

 空がそれに対し頷くと、彼女は再び言ってくる。


「クーさんが行くダンジョンは、未踏破領域のない比較的安全なダンジョンです。でも、森や草原より遥かに危険な場所であることには違いありません」


「冒険者たるもの、いついかなる時も油断せず……ですよね?」


「そういうことです! では、これがダンジョンのマップです……いってらっしゃい!」


 空はそんなお姉さんの言葉に対し、お礼を言ってその場を立ち去るのだった――再びアルハザードさん話が開始されるまえに。

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