第三十三話 空と梓胡桃の遭遇③

 先ほどまでとは違い、静まり返った闘技場内。

 響くのはスピーカーから流れるカウントの音――それは巨大なモニターに表示される数字に合わせて発せられている。



10……9……8……7……


 と、徐々にその時は近づいてくる。

 先ほどまで騒がしかった梓も、今ではすっかり黙っている。


(腐ってもプロヒーローを目指す者。戦いの前は真剣か)


 空も人のことばかり気にしてはいられない。

 先ほどまで彼は時雨のために、梓といい勝負をしたいと考えていた。

 しかし。


(僕は梓さんに負けたくない……僕の意思で、彼女に勝ちたいと強く思う)


 勝てないのはわかっている。

 たとえ異世界で得たレベルの概念があったとしても、序列十位という超人には及ばない。

 けれど。


(絶対に一泡吹かせてみせる……負けるのはそれからだ)


 空がそう考えたその時。


「その顔……それが気に入らないのよ!」


 聞こえてくる梓の声。

 それはカウントがゼロになり、モニターに『GO』の文字が表示されるのと同時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る