第三十二話 空と梓胡桃の遭遇②
「…………」
と、黙って空の目の前で歩いてくるのは梓である。
彼女は空の前で立ち止まると、つまらなそうに言ってくる。
「あんたが今回の茶番の相手?」
「まぁ……そういうことになるかな。よろしく、梓さん」
と、空は梓へ握手のつもりで手を差し出すのだが。
彼女はそれに応じることなく、腕を組みながら言ってくる。
「日向空。風紀委員所属、学内の問題などを解決しているが戦闘能力は皆無。荒事になると委員長である一色氷菓『いっしきひょうか』が来るまで、時間稼ぎをするのが主な任務」
「えっと……」
「異能は『道具箱』だっけ? はぁ……あんたとあたしが戦うとか、とんだ時間の無駄ね」
と、梓はやたら好戦的な態度で言葉を続けてくる。
「あんたわかってる? 本来そこに居るべきはあんたじゃないって。そこに居るべきなのは、あんたの妹の方――白銀ヒーロー『エンジェル』であるべきなんだから」
「…………」
「校長からはあんた相手の方が、試合が引き立つとか言われたけど……ナンセンス。あたしの強さは強い奴と戦ってるときこそ引き立つの」
「…………」
「つまり、あたしと戦うべきは学内序列一位にして、最強のヒーロー。白銀ヒーローの名を持つあんたの妹――日向時雨であるべきなんだからね!」
と、梓は最後にズビシっとこちらを指さしてくる。
なんでもいいが。
(なんだろう……すごく心がざわざわというか、ムカムカというか、イライラというか……)
自分で言うのもなんだは、空は普段全く怒らない。
イジメや犯罪を行っている人に対しては別だが、人に対して苛立つことがないのだ。
しかし。
(さっきから場違いとか、妹を出せとか……わかっていることばかり連呼するし。僕の方が一応先輩なのに、まったく敬語使ってこないし)
「まぁせいぜい早く倒されなさいよね! あたしはあんたみたいな奴に構ってる暇、これっぽっちもないんだからね!」
と、今もこうしてノンストップな悪態砲。
空はここで唐突に理解する。
日向空にとって、梓胡桃は犬にとっての猿なのだと。
水と油が相いれないように、空と梓は決して交われないのだ。
つまり。
「そうか……僕は梓さんのことが、本能的に嫌いなんだ」
「はぁ!? ちょっと、それどういうことよ!」
と、言ってくるのは梓である。
彼女はツインテをわなわな震わせながら、言葉を続けてくる。
「いきなり人に嫌いとか……どんな神経してるのよ!」
「いや、そっちだって! 初対面の人にその口の利き方はないんじゃないですかね!」
「先輩なんだから、心を広く持ちなさいよね!」
「僕を先輩だと認識してるなら、それらしい口を利いてくれませんかね?」
「あー嫌だ嫌だ……急に先輩風? そういうのマジで引くんですけど~」
「…………」
「なによ?」
と、挑発的な笑みを浮かべてくる梓。
空はそれに対し、鼻をならしながら視線を逸らす。
(これ以上は時間の無駄だな。梓さんと話していると、なんかこう……普段の僕らしくない言葉が口から飛び出そうになる。心がざわざわするというか……えっと)
冷静さを失わされるのだ。
その理由はきっと、先の犬猿の仲というものに違いない。
なんにせよ、このようなことは今考えるべきではない。
なぜならば。
「もうすぐ試合開始ね……あんたみたいな雑魚、試合開始と同時に倒してあげるんだから」
と、そんな梓の言う通り。
試合開始のカウントが始まったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます