第三十一話 空と梓胡桃の遭遇

「うわ……すごい人だな」


 現在、空が立っているのは闘技場の中央である。

 対戦相手の梓胡桃はまだ来ていない。


「普段、この闘技場で模擬戦やるときとかは、こんなに人で埋まらないのにな」


 今日は観客席が満員だけではない。

 なんと、闘技場舞台の端ではビデオカメラを持った人たちがスタンバイしているのだ。

 当然、マスコミ関連の人であり、梓胡桃の登場を待っているに違いない。


 と、空がそんなことを考えていると。

 途端に闘技場全体がざわざわとし始める。

 その直後聞こえてきたのは。


「来たぞ!」


 と、闘技場内の誰かが発した声。

 そしてそれに続くのは伝播する歓声。

 それらの先に居たのは。


「あれが梓さんか……テレビや雑誌では見たことあったけど、こうして生で見るのは初めてだな――学年違うし」


 美しい金髪――猫のように柔らかそうで、やや癖のあるショートツイン。

 黒のブレザーにスカートという制服を、誰よりも着こなしている彼女。


 空はそれを見て、なるほどなと考える。


(外見も整ってるし、かなりテレビうけしそうだな)


 しかも、梓胡桃は外見だけではない。

 彼女は世間から将来有望と期待されているのだ。


 白銀ヒーロー『エンジェル』に続き、在学中での特例プロ資格付与。

そんな偉業を成す二人目として。


(梓さんの学内序列は確か十位。三百六十位ワーストの僕とは、まさに天と地ほどの差がある)


 けれど。

 校長には悪いが、時雨との約束のためにある程度は食らいついてみせる。

 空は覚悟を新たに、梓を見るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る