第二十三話 空と空の人生を変える厄介ごと②

「突然だが明日、空くんには梓くんと闘技場で戦って負けてほしい!」


 と、そんなことを言ってくる校長。

 空はそんな彼へと言う。


「いや、普通に嫌ですよ! なんでワーストの僕が序列十位と戦わないといけないんですか!? それに負けろって……まぁまともにやってもどうせ負けますけど、その言い方だとまるで――」


「その通りだ。空くんにはわざと負けてほしい。まぁ今から理由を説明する。しっかりと聞きたまえ! ぶわっはははははははははははははははっ!」


 さて、校長の話をまとめるとこんな具合である。


 なんでも明日、学校に梓胡桃の取材で、大勢のマスコミが来るようなのだ。

 もちろんカメラも入る。


 更にアホらしいことこの上ないが、『梓胡桃の学校生活』というドキュメンタリー番組の制作もするようなのだ。

 そして、このドキュメンタリーこそが問題だ。


「この番組の肝は、梓くんがどんなに優れているのか見せつけることだ! そして、そんな彼女を有している我が学園の素晴らしさも、同時に世間へと見せつけることだ!」


 と、ノリノリな様子の校長。

 彼は更に続けて言ってくる。


「簡単に梓くんの強さを見せつけるのは、異能力者同士で戦わせるのがいい! その方が世間のウケもいいに違いない」


「それはわかるんですけど。だったら、僕よりもっと強い奴に頼んだ方がよくないですか? 僕じゃ勝負にすらなりませんよ? 例えば委員長とかに頼んだらどうです?」


「委員長? 風紀委員のキミの上は確か……一色いっしきくんか」


「はい。氷菓ひょうか委員長なら、かなり見せ場が作れると――」


「ダメダメ、見せ場なんて必要ないんだよ」


 と、校長はテーブルをトントン叩きながら言ってくる。


「見せたいのは梓くんが圧勝するところだ。そうなると、空くんの能力は大分相性がいい……なんせ、攻撃能力が皆無なのだからな! ぶわっはははははははははははっ!」


「はぁ……僕は自覚してるんでいいですけど、他の生徒にそういうことは言わない方がいいですよ」


「あぁ、すまんすまん。わかっているとも、空くんとワシの仲だからこそだとも。それに空くんに頼む理由はもう一つある」


 と、校長はテンションを少し下げ、真面目な様子で続けてくる。


「風紀委員として、異能力者相手の喧嘩に慣れている空くん。キミなら大怪我することなく、梓くんの強さを際立たせられるだろ?」


「喧嘩じゃなくて取り締まりですよ」


 ここまでの校長の話。

 まとめるとこういうことに違いない。


 梓胡桃に圧勝させるため、弱い生徒をあてがいたい。

 けれど、そうすると弱い生徒が怪我する可能性がある。

 それをテレビで流されるのは困る。


 あ、そうだ。

 風紀委員で少し頑丈な日向空に頼もう。


「それで? 頼まれてくれるかね?」


 と、再び身を乗り出してくる校長。

 空が校長に対し、イヤイヤながら頷くと。


「よろしい! ではお礼はいつものオンラインゲームでいいかね?」


 校長はテカテカとした顔で言ってくる。


「次のイベントで、ワシのギルドが空くんのギルドに協力する。それでどうかな?」


「え、それだけですか? 追加で校長が持ってるレアアクセサリー、あれくださいよ。あれ欲しいんですけど、競売所みたらすごく高かったんで」


「少しは自重したまえ! あれを掘るのに、ワシが何時間ダンジョンに籠ったことか!」


 それからしばらく。

 空と校長は一緒にやっているオンラインゲームの話で、盛り上がったのだった。

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