第11話 騎士は海を渡る
クロードは帝国へ渡る決意を固めた。
大きかったのはバードランド伯爵家に憲兵隊が来ていた事とエルの存在だ。
バードランド伯爵夫人は明らかに挑発めいた言葉使いをしていた事からも、あの日クロードが逆上していたらアーガイル子爵家は潰されていただろう。
それほど、王家や上位貴族からアーガイル家が目をつけられたいたのだ。
そう考えると遠くない未来に何かしらの罪を被せられる可能性が高いとクロードは判断した。
商会や子爵家の使用人は少数だが、だからこそ大切な仲間だった。
彼らにまで累が及ぶリスクをこれ以上看過できなかったのだ。
そしてエルからの誘いだ。
出会ってから彼女の言葉には常に嘘がない。弱り目に漬け込まれたのかもしれないが、彼女からの騎士の誘いは魅力的だった。
忠義の先を失っていたクロードにとって、彼女を守るという役目はねがってもいない事だった。
海を渡る為に、クロードはまず騎士団を辞めた。
申請を出すとすぐに承認されたところを見ると、王国にとって子爵家の動向などあまり追っていないのだろう。
その足でクロードは子爵位の返還も王家に申請した。
こちらは流石に騒ぎになったが、貴族位を捨てる無能な下級貴族と笑われながら、特段慰留や詮索もなく一週間程で承認された。
クロードが帝国に渡る障害はこれでなくなったのだ。
クロードは身辺整理を終え、準備が整うとエルから「母の男爵位を継承できる」との連絡がきた。
1から騎士としてまた商会としてやり直し、彼女の隣に立つつもりだったクロードは思わぬ足がかりに驚きと調べてくれたエルに感謝の気持ちでいっぱいだった。
母は帝国の男爵家の生まれだが没落し一家離散した過去があったらしい。
戦場で救護活動をしていた際に父と出合い恋に落ちたと報告書にはあった。
子爵位は返上したため、クロードがこれから母の生家であるバラム姓を名乗る事となった。
商会にアーガイルの名を残す事で父への義理は果たそうと決めた。
帝国には商会のメンバーと使用人全てが付いてきてくれた。
エルを守る騎士となり、商会の仲間の生活を守る決意を固めクロードは海を渡るのだった。
クロードが帝国に渡るとすぐに王妃に呼ばれ、父への感謝を伝えられた。
父が助けた王女様は王妃として帝国臣民から絶大な支持を集める女性であった。
王妃の口添えとクロード自らの努力によりクロード=バラムはすぐに頭角を現す。
海を渡り数年後に起きたランド王国の内紛や帝国内の要人警護で活躍したクロードはいつしか帝国一の騎士と呼ばれる様になり、高位貴族に婿入りすることとなった。
帝国のヴァインベルガー公爵家に婿入りした騎士とその妻が後の帝国の騒乱を切り抜け、帝国一のオシドリ夫婦と呼ばれたのはまた別の話である。
騎士は海を渡る @nishikida00
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