第7話 休暇と訪問者
『逆侵攻』という命令がナルヴァ城塞都市に届いたのは、解放から二週間後の事だった。
ガルド砦を奪い返しダグラムに攻め込む場合、深い森を抜けるか、山岳ルートを通るしかない。
どちらも大軍での行軍が難しく、戦闘は運動戦となりやすい。
ダグラムの装備や練度が改善された今、ランドが上回るのは純粋な数である。
しかし、その優位性を活かしにくい要素が逆侵攻には詰まっているのだ。
ユンカー団長も明らかに不満な表情を隠していないが、様々な思惑で戦時騎士団の団長を務めている以上、本部の指示に反発は難しいだろう。
王都からの増員とナルヴァ辺境伯の兵士を加えた戦時騎士団はガルド砦を早々に制圧すると山岳ルートで進軍した。
クロードも前線に立ち、剣を振るう。
少なくない犠牲を出しながら峠を勢力下に置き、麓の2つの街を制圧したのは、ナルヴァ解放から半年経っての事だった。
久々に休みが与えられたクロードはナルヴァに帰還していた。
半年働き詰めで初めての休暇は約半月ほどの予定だ。
戦時中であるため王都に戻ることは出来ないが、常に警戒体制が求められる前線から離れられるのは大きかった。
週に一度出していたクリス宛の手紙の返事はナルヴァまでしか届けられない為、休暇に入って初めて読むことが出来た。
クリスの手紙には、クロードの身体を心配する内容や騎士学校での出来事が詳細に書かれていた。
「クリスが楽しい学園生活を送れているならここで踏ん張っている価値もあるな」
そう独り言ちたクロードは返信をしたため、手紙を手に宿舎をあとにした。
手紙を本部に預けたクロードは、商会から届いた手紙にあった喫茶店に入るとすぐに待ち人はあらわれた。
「久しぶりですね。クロード」
「お久しぶりです。エル商会長様」
「あら?随分と距離があるじゃない。あんなに求め合った仲なのに」
「ええ。オークション会場ではお世話になりましたね」
ひとしきり笑い合う。
彼女は海を隔てた帝国で出会った美少女だ。
お偉い出自ながら自らの足で稼ぐ同い年の商人と、異国で商会業務に走り回ったクロードが仲良くなるのは自然なことだった。
「で、何で帝国のお偉いさんがこんな辺境まで?」
クロードの問にエルは答える。
「帝国産の武具が密輸されてこの戦争に使われているみたいだから」
「たしかに装備は新しかった。私も商会で数回見ただけですが」
「そうなのよ。最新とは言わないけど、国外にはあまり多く出してない筈なのに何故か数千の単位で流出しているの」
「なるほど。それは国防からも経済的にも一大事ですね」
クロードは思った以上に厄介な事になっていると再認識した。
この戦争には、当初から支援者がいることはわかっていた。
しかし、その支援者が帝国でも輸出規制品を持ち出す事に成功する程の力がある人物であると判明したのだ。
「帝国内での調査で当たりはついているのでしょう?」
「ええ。でも証拠がないのよ。だから現地まで私がきたの。無理を押し通せる私が」
「危険ですよ」
「ならあなたが守ってくれる?」
「来週にはまた最前線ですよ」
「残念」
笑う彼女にクロードも笑う。
「俺に会いに来たということはうちの商会にも査察を?」
「一応ね。うるさいのがいるのよ。王国のしがない子爵に権限を与え過ぎだってね」
「まあそう思う方はいるでしょう」
その話を聞いてクロードは一つの取引を思い出す。取引は中止となったのだが、季節外れの芋の荷運び依頼を一年前に打診されたのだ。
「もしかしたら帝国と王国の尻尾が見えるかも」
「やっぱりあなたに会いに来て良かったわ」
「商会の台帳に未決契約のリストがあります。そこに季節外れな荷運び依頼がありました。もしそちらが内偵中の方ならば足取りを追えるかもしれません」
コースターに時期と取引内容を書き渡す。
「大好きよクロード。今から王都に向かうわ」
「俺も仲間として好きですよエル」
「ふふ、あなたが困ったら帝国に来なさい。あなたはここで埋もれる人じゃないわ」
「お心遣い感謝します」
「もう…。本気なのに」
エルはそう残し店を出ていった。
「会計は俺かよ…」
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