第6話 思惑

エヴァンス三世が王位について初めての戦争は勝利に終わった。


しかし、騎士団と独自に派遣した特務の報告書をそれぞれ見て、思惑通りとは行かなかったことを悟る。


「思ったより生き残ったな」


王は今回の戦争に2つの思惑があった。

一つは勝利という結果を国民に示し新国王として支持を得ること。

もう一つは増えすぎた貴族の力を削減する事であった。


ダグラムが宗教にかぶれた帝国貴族の支援を受けて戦争の準備をしている事を掴み、王はこれは好機だと思った。


「美しい王国」を取り戻す為の。


先代国王は幅広く支持され、敬愛される王であったが、些か優しすぎた。

功を上げれば身分に関わらず取り立てたし、平民や商人に門戸を開いた。

結果、我がランド王国の国力は上がったが、品位は落ちた。


大陸最古の国家である『私の王国』で、下級貴族が成り上がり、伝統の貴族が蔑ろにされた姿に嘆く母を見て幼心に父への怒りをエヴァンス三世は覚えていたのだ。


『上位貴族は強い不満を持っています。あなたが解消してあるべき王国にするのです』母親の言葉はエヴァンス三世の基本方針になった。


不満がある上位貴族からも先代国王は最終的に支持された。

それは、圧倒的な武力を持っていた事と飴も与えていたからだった。


先王は王太子の頃から、貴族が爵位とは別に騎士の位を有している事に目をつけていたらしい。そんな折、帝国視察からの知見で平民を騎士団兵士として徴用し、常備軍を組織した。

新設した常備軍の幹部に騎士の位を根拠として上位貴族を据えたのだ。


王都や自身の領地にいるだけで、紛争や野盗討伐は現場指揮官である下級貴族と平民兵士で行い、報酬は得るという仕組みを父は作った。

新たな地位と報酬を与えられた貴族は不満を飲み込み、先王は常備軍という力と貴族の支持を手にした。


そんな王が崩御し、息子であるエヴァンス三世に席が回ってきた。


成り上がりの多くは王家というよりは先代国王個人に忠誠を誓う様に見えたし、実際に古き良き王国を復活させんがために動いても、中々うまく進まなかった。


そんなエヴァンス三世を助けてくれたのが、3公爵と8侯爵家だった。


高貴で伝統を持つ彼らは新国王の苦悩を理解し、「美しい王国」を取り戻すという言葉に頷いてくれた。


故にこの戦は「負けないが成り上がりに犠牲が多く出る」戦時騎士団を組織する事に注力したのだ。


しかし、蓋を開けてみれば、被害の責任は問えるが、マクミランの家門以外は標的とした成り上がりどもの犠牲は少なかった。

理由は報告書にある通り、被害が決定的となる前に、敵陣を駆け抜けた遊撃隊が敵の大将を討ち取った事だろう。


「アーガイルか…。身体をはるしか脳が無い家め。そしてバードランドの末娘との婚約は成り上がりの準備か…。穢らわしい」


前アーガイル子爵は帝国へ嫁ぐ姉を救い出した英雄と言われているが、エヴァンス三世に言わせれば警備の不備を突かれた無能な下級騎士だ。

優秀な血を有する伝統ある騎士ならば、怪我などせず守りきれたはずなのに、やたらと功を主張し伝統貴族に取り入るとはあさましき不忠者だと思う。


イライラしながらも、当初の目的であった口うるさいナルヴァの狸と増長が激しかったマクミランの家門を排除出来たのは大きいと思い直し筆を執る。


執務室から出て、あらかじめ用意していた策を議会に送付した。

上手く行けばアーガイルを利用し「美しい王国」に近づくはずなのだ。


笑いながら差し出した議案の名は『ダグラム逆侵攻』だった。

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