第3話 宣戦布告と騎士の仕事

学長が閉会を宣言したあと、騎士団所属の者は残るように指示があった。

クロードを心配そうに見ているクリスには心配無いと軽く伝え講堂前方へと向かう。


講堂に騎士団に所属する面々が残った。子どもの入学式に参加していた親と警備担当者が多い様子だ。

一方学生ではクロードと祝辞を述べた三年生だけ。


険しい顔の学長の隣には、いつもより強張った表情の騎士団本部の副長がいる。

その口から伝令の内容が伝えられた。

「ダグラムが我が国へ宣戦布告。同時に国境線を破りいくつかの拠点が奇襲攻撃を受けた。激戦となった国境のガルド砦は陥落。ナルヴァ辺境伯軍の奮戦によりナルヴァ城塞都市の陥落は免れるも辺境伯は討死したとのことだ」


ダグラム聖王国は光聖教を国教とする宗教的紐帯を持つ国家である。

ランド王国内に光聖教が聖地とするアカム山がある為、何度も国境紛争に発展している王国の敵対国だが、兵力差が大きく今までは小競り合い程度で終わる相手だ。

数年に一度起きる『小さな国境紛争』と呼ばれる小競り合いは、騎士になった者が最初に行う『度胸試し』の様に扱われていて、ここ数回はこちらに死者さえ出ていない。


だからだろう。副団長の深刻な表情と声色に先輩騎士が首を傾げる。

「いつもの奴らならそこまで心配する必要は無いのでは?卑劣な奇襲を受けた辺境伯の件は残念ではありますが、こちらから掃討に動くならば、ダグラムの武力などたかが知れています」

その言葉に多くの騎士が頷く。実際にクロードの初陣もダグラムとの国境紛争で、対峙した兵士は練度も装備も拙く、とても戦争に耐えうる軍ではなかったと記憶している。


しかし、多くの騎士が緊張を解く中、副長は首を横に振った。

「装備は最新式で兵士も訓練されていると報告が入っている。恐らくどこかの支援を受けていると見て間違いない。死を恐れない宗教家が最新式の装備と兵法を学んだ。今までと同じと思っていると痛い目を見るぞ」

苦い顔で忠告をする副長と楽観視する騎士達の温度差が講堂で埋まることはなかった。

その温度差に不気味な不安をクロードは感じるのだった。


名門のベルト侯爵家次期当主ユンカー様とマクミラン伯爵をそれぞれ団長と副団長とする戦時騎士団が組織され、クロードも子爵家当主として出陣の命が届いた。

翌日には王都を立つ慌ただしい日程である。


まずは子爵家の家業である商会の全権を家令に任せる為の委任状をしたためた。

「オーリー!商会と子爵家の管理を頼む。もし私が死ねば遺言の通りに」


「確かに承りましたが、老骨より先になど縁起でもないことは仰らないでください。古くからこの土地には言霊信仰があります故」


「悪かったよ。ただダグラムも今までとは違うみたいだ。どれくらいかかるかは読めない。」

率直な感想を述べるとオーリーも険しい顔をする。

「宗教的紐帯がある兵士は厄介です。特に光聖教は死後の救済に浄化を求めますからな」


「ああ。ただ騎士団の一部はあまり今回の件を深刻には捉えてないきらいがある。もっとも上層部は死んでもいい人材を送るつもりの様だから危機感はあるらしい」


クロードは出陣の通達をオーリーへ見せる。

「見事なまでに下級貴族や主流派から外れた家ばかりを選んでますな。参加する上位貴族は近衛騎士団のユンカー様以外はみな近年改易を受け失地回復を願う家ですな」


「ああ。上層部からの明確なメッセージさ。危険な任務であるという」


オーリーは苦い顔をしながら呟く。

「騎士の仕事とは国防であり、民と国土を守る事のハズがいつからか上位貴族は殻に籠もる様になってしましたな」


「仕方がないさ。皆死にたくはない。死地に送る権限があるなら味方以外を送るさ」

言葉を紡いだあと、沈黙が支配する執務室に耐えかねため息を吐く。


「みんなには負担ばかりで済まないな。オーリー頼んだ。」


「粉骨砕身務めます」

頭を下げたオーリーは一度退室していった。


しかし、すぐに扉は開き手紙を持ってきた。

「バードランド伯爵家より返答がありました。すぐにでも会いたいと」

「わかった。馬の用意を」

「御意」

身なりを整え、騎士の仕事とはなにかを改めて考えながらクロードは厩へ急ぐのだった。

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