第2話 入学式と伝令
入学式当日は快晴であった。
黒い騎士団隊服を着たクロードは騎士学校へと向い、クリスの到着を待った。
入学式には多くの貴族が集まる。
当然道は混雑するし、トラブルも起きやすい。
そのため、爵位毎に入校時間がズラされているのだ。
伯爵家の時間になると一気にロータリーは混雑し始めた。
ランド王国では伯爵家以上が高位貴族と呼ばれ、領地の管理などが認められている。子爵や男爵でも領地持ちはいるが、3代目を越えると国に返還しないといけない規則がある。要は3代目までに爵位を引き上げる功績を残せない貴族は上位貴族にはなれないという制度なのだ。
これは紛争が多い時代に生まれた制度だった。
功績を更新できぬ者から土地を返還させ、新たな功績を上げた者にその土地を与える事で良い緊張感と競争があったという。
もっとも、平和な世では格差固定化の制度とはなっているが。
そんなことを考えていると、バードランド伯爵家の紋章を付けた馬車が入ってきた。
よどみなく騎士の礼を取り馬車の出入り口に控える。
扉が開くと白い騎士団隊服が着こなした美しき婚約者がいた。
「お手をどうぞクリスティーナ様」
「クリスでいいわ。現役騎士だからかしら。隊服が誰より似合うわクロード」
「クリスの方が似合っています」
「ありがとう」
高位貴族の証たる白隊服が彼女の鮮やかなゴールドの髪を輝かせた彼女は誰よりも美しく、クロードは見惚れてしまい、二人は見つめ合う。
「全くお熱いわね。私の事は目に入らないかしら」
そう言いながら馬車から淑女の鏡の様な女性が悪戯っぽい顔をして降りてきた。
慌てて手を差し出したクロードの手を取り満足そうにしている。
「お母様!待つのがマナーではなくて?」
「待っていたら見つめ合ったまま入学式が始まりそうでしたから」
「もう!」
普段よりクリスが幼く見えるのは入学式の高揚と母がいるからだろうか。
とてもかわいいので嬉しい。
クロードは網膜に焼き付けるのだった。
一通り歓談をし講堂へ向かった。
高位貴族は家族を連れて来てもよいのだが、当然保護者席と学生の席は異なる為、入口で伯爵夫人と別れ講堂に向かった。
講堂内では親の爵位毎に異なるエリアに座る事となる。
今年は公爵家と侯爵家からの入学者がいるが、王族が居ないため警備は緩めだ。
昨年は第二王子が入学という事もありクロードも警備に駆り出されたので、あの日と比較をすればかなり緩い空気である。
警備担当の先輩に挨拶をしながら講堂を進むうちに、伯爵家のエリアに着いた。
「ありがとうクロード。私は挨拶に回るわね」
「ああ、私も自分のクラスの挨拶に向かいますね」
手を振り別れたクリスは、友人である伯爵家令嬢達への挨拶に行ってしまった。
見送ったクロードが子爵エリアに戻ろうかとした時、嫌な声に呼び止められたのだった。
「いやはや。ご苦労だったね。アーガイル子爵殿。」
ニヤニヤしながら話す男がいた。
「クリスのエスコートに苦労など御座いませんよ。アルフォン侯爵令息様」
少しだけ令息の部分を強調してみたがあまり効果は無かった様だ。
「そうだろうか。対極の色は混ざらない。何かと苦労は多かろう。まあよい。ここからは私がクリスをもてなそう」
早く去れという事らしい。腹立たしくもあるが、致し方無い。これが身分の壁だ。
恭しく頭を下げて子爵のエリアへと帰るのだった。
式が始まるまでの間、周りの同級生と話して回った。
これから学友となる仲間達だ。少しでも人となりを知りたかったのだ。開会の挨拶により中断となったが、いい仲間に出会えた感触はあった。
開会の挨拶で始まった入学式はやはり退屈で、夢の中へと旅立っていく同級生がちらほら現れ始める。
子どもの頃から何度も読まされた『騎士の歴史』を既に20分も語る学長は、野営時の野盗より強大な敵だ。
長い話もなんとか終わり、式次第の終わりが見えてきた時、学長の元へ見知った伝令が駆け込んだのが見えた。
目を見開いた学長の姿に、クロードは嫌な空気を感じるのだった。
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