騎士は海を渡る

@nishikida00

第1話 騎士と貴族

ランド王国の貴族は男女の別無く爵位とは別に騎士の身分を持つ。

これは、ランド王国成立の過程が影響している。


肥沃な大平原を治めた初代国王エヴァンスは、力を持つ農家や商人に土地所有や商売の特権を与えた。

その見返りに肥沃な土地を狙う外敵からの防衛に自費で参加する様求めたのだ。

いつしか彼らは国防を担う騎士となり、国防を担うから特権が認められる『貴族』として扱われる様になっていった。


現在では、下級貴族や平民主体の常備軍が出来たりと実情とは乖離してはいるものの、今でも特権の裏返しが騎士であるという建前を整えるためだけに王国貴族は騎士学校へ入学する決まりがある。

16歳にしてアーガイル子爵であるクロードもその一人だった。


クロードは父の死で若くして当主となった。

そのため、同世代が卒業式で受ける騎士の叙任も既に終え、野盗討伐任務や数年前の『小さな国境紛争』にも参加している。

領地を持たない貴族ではあるが、家業とする貿易商会と騎士の給与があるため特段豪華な生活は出来ないが生活に困ることは無い。

そんな状態で今更騎士学校に通うというのは少しばかり憂鬱であった。


騎士学校と名は付いているが、剣術や兵法や補給指揮などを学ぶ授業はそう多くない。

もっぱら、貴族の顔つなぎや婚約者探しの箱庭であり、次代の派閥争いの場だ。

そこに三年間通い、家業と騎士団の活動を制限されるのだ。面白いわけがない。

そう思うと明日からの学校生活が憂鬱で今日何度目かのため息をクロードはついていた。


すると、ソファーから笑い声と優しい声が届いた。

「またため息ついてる。最後の休暇と諦めて3年間は学生をやりましょう」

「もちろんやるしかないのはわかってるよクリス」

クロードはクリスに苦笑いを返した。

クリスは建国以来の名門貴族で、王家の嫁ぎ先にもなった事があるバードランド伯爵家のご令嬢で、クロードの婚約者だ。

澄んだブルーの瞳と鮮やかな金の髪は誰が見ても見惚れる美しさであり、剣術と令嬢の教育で培った姿勢は抜群のスタイルをより際立たせていた。


子爵の婚約相手としては、身分も容姿も釣り合わぬ美少女である。

そんな彼女がクロードの婚約者となった背景には、先代アーガイル子爵の功績が関係している。

帝国との婚儀に反対する暗殺者から、王女を守り抜いた姿に先代国王はいたく感動し、『そなたの息子に良縁を紹介しよう』と動いたらしい。


クリスはもっと良い嫁ぎ先があるにも関わらず、『王の紹介』という最も断わり難い仲人のせいで子爵家に嫁いでくれることになったのである。

だからこそ嫁いでくれるクリスにお金の苦労だけはかけたくなく、父の死後は商会と騎士の仕事にクロードは積極的に参加しているのだ。

それが、入学後は制限されるのだから、何度も言うが面白くはない。 


そんな不満げな様子に少しだけ口を尖らせたクリスは言う。

「クロードは私と同じ学校に通うのがそんなに嫌なのかしら」

「まさか。クリスとの学校生活は楽しみだよ。ただクリスは人気だからやっかみが凄そうでさ」

「あら?私はクロードと婚約しているのだからドンと構えていればいいわ。しかもあなたは令息ではなく当主様なのだから」

「ああ、しっかりとエスコートするよ」

自分でも恥ずかしくなる言葉を吐いた後、少しだけ赤みがかったクリスに笑いかけた。

「うん。よろしくね」

明日の入学式はしっかりとエスコートしなくてはと決意するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る