第12話 佐藤という男

「俺は昔、とある道場に住み込み、師匠から徹底的に指導を受けていた。成長は目覚ましく、元の才能もあってか、俺の敵はいなくなっていた。佐藤を除いてな」

「ああ、お前は確かに強かった。道場では俺に続いた実力者だった」

「俺は勝つためにどんな過酷な修行も積んできた。だが、お前はあの時、俺に背を向けた。それは才華を守るためだった。その時のお前の背中はとても硬く、なによりも強固だった。それで俺は気づいた。人間は何かを守るときにこそ真価を発揮するものだと、、、それから去っていったお前を追うようにして俺も道場を後にし、独力で訓練を重ねた。そして、須藤煉太郎、お前の噂を聞いた」

「おい、お前、まさか、、、」

「ああ、雷の悪魔の話は全てでっち上げだ。全力のお前と戦ってみたかった。俺は路地裏で1人で会話をしていたお前を見かけたんだ」

そうか、あの時の会話を聞かれていたか、もっと用心するべきだった。

「気は済んだか、ライタ」

「ああ、一思いにやってくれ、、、」

佐藤チーフは構えた。俺には分かった、彼はジンライを殺す気だ。

「待て!どうしてそうなる!?確かにこいつは悪いことをした!だけど、俺はこいつにはまだ改心する余地が、、、」

「、、、須藤、俺の通っていた道場にはおきてがあった。それは道を踏み外した仲間は自らの手で始末するというものだ」

「ダメだ!こいつを殺したら、お前も道を踏み外すことになる!なら代わりに俺を殺せ!それで満足か!?」

「須藤、、、」

「人を殺すのはダメだ!いつもの優しくて、ドジで、どうしようも無い佐藤に戻ってくれよ、、、」

「、、、そうか、そうだな、確かにお前の言うことが正しい。俺も考えを改めた方がいいかもな、、、」

「、、、すまない煉太郎、俺のために、、、」

「それは違うぞ、ジンライ。俺はあくまで自分の信念を佐藤に押し付けただけだ。お前を助けるつもりでは決してない」

「じゃあ、俺から言わせてくれ、須藤。俺のために説得してくれてありがとう。このまま自らの手を汚すところだった」

「いや、誰かのためになるのなら、これくらい簡単なことさ」


やがて警察がやってきて、俺たちは事情聴取を受けた。その後2人、肩を並べて

帰路をたどっていた。


「なあ、チーフ、最初に俺とタイマン張ったときは本気じゃなかっただろ?」

「ん、どうした、突然、、、」

「いや、あの身体能力の持ち主に勝っていたお前なら俺を倒すくらい造作もなかっただろう?」

「まあ、流石に初対面の相手には手加減くらいするさ」

「そうか」

俺は一息ついてから言った。

「、、、悪魔の話を聞いただろ。俺の正体を聞かないのか?」

「ん?ああ、その事か。心配するな、全く気にしてないから」

「、、、ありがとう」

彼はそれ以上深追いしてこなかった。それは俺にとってありがたかった。


明日からの仕事も頑張ろうとベッドで横になりながら意気込むのだった。

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