第6話 休日
今日はライブもない。才華はオフの日を満喫していた。、、、俺と共に。
「なあ、才華。これはまずいんじゃないか?」
「え、どうしたの、煉太郎さん?」
「どうしたの、じゃないだろ。お前、アイドルなんだから、俺と一緒のプライベートを見られるとまずいんじゃ、、、」
「それなら平気だよ、今は私、オフのモードだもん」
確かに道ゆく人は皆、俺たちを素通りしていく。
「すごいな、これがオンとオフの切り替えってやつか」
「ふふん、それほどでもないよ。眼鏡もしてるしね」
俺は才華についていった。まずはネイルの繁華街にあるネイルサロンに赴いた、、、シャレではない。
「ね、どう?煉太郎さん。これ可愛くない?」
「あ、ああ、そうだな。可愛いな」
「ねぇ、ねぇ、彼氏さん。この子逸材ですよ!きっとどんなネイルをしても似合いますよ!」
まあ、そりゃ、一世を風靡するアイドルだもんな。きっとなんでも似合ってしまうのだろう。
次に向かったのは少し路地裏に入ったところにある、一軒のラーメン屋だった。
「意外だな、お前、こういう料理が好みなのか?」
「ここのラーメンは美味しいんだよ。煉太郎さんも食べてみて!」
俺たちは隣同士のカウンター席に腰掛け、共にラーメンをすする。
「お、うまいな、これ。お前がハマる理由も分かる気がするよ」
「でしょでしょ。でもこのことは2人だけの秘密、だよ!」
食後は腹ごなしに若者が集まる商店街を散策した。
「そこのカップルのお2人!このペアルックのブレスレットがお勧めですよ!」
「ええ、いやだなぁ、カップルなんてぇ」
「おい、才華、お前こういう勧誘には慣れてないのかよ」
「はいはい!それ買います!」
才華はその決まり文句に負けてブレスレットを買ってしまった。
「ねえ、煉太郎さん、これ早速着けてみてよ!」
「ええ、、、でも、、、」
「私は仕事中は着けないから大丈夫だよ、ほらほら」
俺は才華に言われるままブレスレットを身に付けた。
「これでお揃い、だね!」
その後の彼女は上機嫌だった。
腹ごなしの最中、ゲームセンターにも寄った。
「ね、ね、煉太郎さん、このぬいぐるみ可愛い!取って!」
こういう金を使う場所に慣れていない俺に無茶を言う。
「ああ、分かったよ、しょうがないな、、、」
俺は楽しそうな才華に逆らえず、熊のぬいぐるみを取ることになった。
「うーん、今だ!」
俺は渾身の一撃を繰り出した。
「あ、すごいすごい!これなら、、、」
ボトッ。
「あー、ざーんねーん」と言うゲームから発せられるその煽り音声にカチンと来た。
「よし、それなら、取れるまで続けてやる!」
「よっ、煉太郎さん、男前!」
俺は結局20回目でようやくそのぬいぐるみを獲得するのだった。
帰り道、もう日も落ちかけていた。
「今日は付き合ってくれて、ありがとうね、煉太郎さん」
才華は大事そうに俺が取ったぬいぐるみを抱えて隣を歩く。
「こっちこそ、お前の意外な一面が見られて嬉しかったぞ」
「ふふ、そうかな」
「ああ、ラーメン好きなところは特にな」
「あ、やっぱり?お母さんにも意外って言われたしね」
「、、、そう言えばお前って親はどうしてるんだ?見かけたことがないが、、、」
「そ、それは、、、」
「いや、無理して言わなくていい」
才華は一瞬気まずそうな表情をした。
「そうだね、煉太郎さんには言ってもいいよね。私の本名は相馬才華。私のガードマンをしている相馬の娘なの」
「なんだ、そんなことか」
「え、どうして?意外って思わないの?」
「いや、相馬チーフのお前を見守る視線が、俺の母親に似てたもんでな、なんとなく気付いてたさ」
俺は、昔見ていた母親の姿を思い出していた。
「そうなんだ、、、煉太郎さんのお母さんにも会ってみたいなぁ」
「、、、それは、、、」
「、、、煉太郎さんこそ無理して言わなくてもいいよ」
「これもお前には言ってなかったな。俺、実はこう見えて年寄りなんだ。こんな見た目だけどな。だから、いや、それは関係ないか。母さんは大昔に死んだ。戦争でな」
「そっか、、、でも煉太郎さんがお年寄りなのは薄々気付いてたけどね。お婆ちゃんからあなたの話を聞いてたしね。それにあのお守りを持ってたから」
そうか、きっと才華は俺の正体を聞いても驚かずに平然とするのだろう。俺は安心した。
「さ、もう着いたよ。名残惜しいけど、また明日ね、煉太郎さん」
「ああ、またな」
才華と別れた俺は、いつも通り宿舎で眠りにつくのだった。
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