第4話
「あるばいと?」
「そうよ、アルバイト」
「なんだそれは」
「あらまぁ知らなかったのね?」
マオの母が口元に手を当ててくすくす笑う。
壁を修理した日の翌日、学校に行ったマオを見送った魔王はキッチンに立っていた。
「知り合いのトンカツ屋さんが、アルバイトを募集してるのよ。それで、マオウさんはどうかって推薦しておいたの」
マオの母が魔王に紙を見せる。そこには『一緒にトンカツを作りませんか?』の文字が。
「家が燃えちゃって海外から日本に来たのなら、帰る場所がないでしょう?壁の修理も終わったし、ここにも居づらくなっちゃうかなって……。でも、バイトをしてそこから食費を出すなら、居候とは違いますから。ね?」
「よく分からぬが、余に働けと言うのか?」
魔王の顔が険しくなる。しかしマオの母は怯えない。
「マオウさんは成人してるでしょう?バイトでもなんでも、お金を稼がなきゃ、ね?それに、バイトは午前中だけで結構ですから」
「午前中だけ?午後は一体……」
マオの母がハンガーにかけてある服を指差す。魔王が視線を移す。LLサイズのピンク色エプロンだ。
「あれを着て、家事をしてもらいます。午後は掃除洗濯夕食作りまで、マオが帰ってくるまでに済ませましょうね?」
「……え?」
「何故!余が!こんなことを!!!」
律儀にエプロンを着て、金色の髪を後ろでお団子にした魔王が風呂掃除をする。
「あの女……!余の魔王の力が戻ったら一番に木っ端微塵にしてくれる……!」
「マオウさん、私、そこのスーパーで夕ご飯の材料買ってくるわね」
「ぐぬぬ……」
夕方、マオの部屋。
「で、マオウさん働くことになったんだねー」
「なったんだねーではない!余は魔王であるぞ!!!働く必要などないのだ!」
「でもさー、お母さんが泊めてくれるって言ってるし、乗った方がいいんじゃないかな?」
「む……」
「また警察に捕まるの嫌じゃん?」
「それは……」
「ま、バイトしてお金貯まったら魔界?へ飛行機で帰るでもいいと思うしー?」
「飛行機で帰る場所ではない!……だが、今は何もできんのは事実であるな」
「えっ」
「なんだ」
「い、いや、認めるんだなーって。なんか、そういうこと今まで言わなかったからさ」
マオが苦笑する。
「……余はただ強いだけではなかった。勝てぬたたかいはしないと決めていた。だからすごく強かったのだ」
あの男から逃げていた過去もある。勝てるようになるまで、逃げていた。
「そっか。なんか意外?かもー」
「ふはは、怖気付いたか?」
マオウがマオの顔を覗き込む。
「余は貴様のジョシリョクとやらを超える力を身につけるために人間界に残るのだ。貴様を倒したとき、余は人間界でも一番になれる。だから、バイトとやらをしてこの家に残ることに決めたのだ!」
「そういえばそんなこと言ってたねー。女子力とかなんとか」
「忘れるでない!!!」
マオがスマホを取り出して音ゲーを始める。
「明日からバイトでしょ?今日は早めに寝なよー」
「分かっておる。ふん、トンカツとやら……余に倒せぬ敵ではないわ!」
(なーんか変なんだよね。本当に魔界から来た人だったりして)
そんなわけないけど。マオは首を振って目の前のスマホをタップした。
ギャル魔王様!2 まこちー @makoz0210
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