第3話

歌が、聞こえる。

美しい歌声だ。

(どこから?)

学校帰り、自転車を引いて歩いていたマオがその声の主を探す。

「〜♪」

背の低い、桃色の髪をした女の子の後ろ姿が目に入る。河川敷から聞こえたのか。隣の中学の制服を着ているから中学生だろう。緑のセーラー服だ。下はズボンだった。そういえばあの中学はジェンダーレスの制服になったのだった。

「あ……」

女の子がマオに気づく。そして近づいてきた。

「ボクに何か用?」

「い、いや……良い歌声って思っただけだよー」

まさか話しかけられると思っていなかったマオはたじろぐ。

「ありがとう!ボク、アイドルになりたいんだ。それで歌ってるの」

「中学生なのに、将来のこと考えてるってすご……」

「本当は他に任務があるけどね……情報がないとなんとも」

「任務?」

友達との遊びの一つだろうか。マオが首を傾げていると、女の子がスマホを取り出してマオに見せた。

「人を探してるんだ。この地名ってここのことだよね?」

マオが画面を見る。

「そうだよー」

「じゃあやっぱりこの辺に……。あ、ボクはエマ!君は?」

「マオ」

「マオちゃん!ボク、この辺に引っ越してきたばかりで何も分からないんだ。人探しの件もあるし……何か分からないことがあったらさ、頼ってもいいかな?」

エマの大きな瞳がマオを見上げる。

「もちろんいいよ。先輩ってことになる、のかな」

「ありがとう!マオちゃん!」

そのとき、エマが少し背伸びをしてマオの頬にキスをした。

驚いて、キスをされたところを右手で触る。

「あ、そろそろ宿題やりに帰らないと!じゃあね」

「う、うん」

(女の子、だよね?)

スマホから通知音。画面を見ると『エマさんがあなたを友達追加しました』の文字が。

(今の一瞬で?どういうテク???)

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