三日目 中編
勢いでどうにかしようとしていたわけではない。
でも慣れていないことをするのはどうしても疲れてしまう。私は私の持っている感覚の中で一番価値のない存在だから。
家に大切に保管してある日記を思い出しながらそんなことを思う。
例えば、絵が人よりもずっとうまかったり、文章が綺麗でまとまってたり、人に頼ってもらえるくらいしっかりしていたら……私なんかよりも人生が楽しんだろうな…。
疲れてくると突然こんなネガティブな感情が湧き出てきてしまう。
「年さん。これも持って行って」
水色の鍋掴みに覆われた手がパンの乗った、熱々の鉄板を差し出してくる。
「は、はい!」
ぼーっとしていたわけじゃないけど意識を自分のことに向けてしまっていたからとっさに反応ができなかった。
店長と同じ右手に着けた飾り気のない水色の鍋掴みでその鉄板を受けとって、左手に持ったトングで熱々のパンをトレーに移動させる。
お昼を過ぎたあたりで用意していた食材を全部使い切り『売り切れ』という形でお店を閉じる。お店の扉にかけてある『OPEN』の看板を『CLOSE』に直したら、閉店の準備は終わり。
そんなことを教えてもらってのんびりとした時間が流れるなか店長が明るい口調でそんなことをいう。
「おつかれ~」
店長が軽く言うけれど正直、鉄板を持っていた手が上がらない。
「お疲れ様です。」
何が何でも私はこの生活を続けなきゃいけないから頑張って笑顔で返す。その笑顔に元気をさらに取られてしまう。
「……大丈夫?疲れた?」
「はい…疲れました」
「お疲れ様。あ、まかないついでに新商品の味してみない?」
元々パンが好きだった私的には嬉しすぎるこの提案をありがたく受けてここでお昼を済ませてしまう。
「ごちそうさまでした。ありがとうございます」
「いいや。こちらこそありがとうね。じゃあまた明日もお願いね」
そんな会話をして帰宅する。周りはまだお昼という空気。歩いている人は極端に少なくて、そのくせ車通りはいつも通りという寂しさを感じる時間帯。
「快晴だー…。」
せっかく心地のよい、過ごしやすい気温に晴れの素晴らしい日なのに家に直ぐ帰ってしまうのはもったいない気がして近くにある公園に寄り道をする。
その公園が頭にうかんだのは多分、単純に近くにあったから。それだけだと思う。
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