二日目 中編

冷蔵庫を覗いてみると何も入っていなかった。…どうしようかって悩んだときに求人の本を買いにコンビニに行きたいことを思い出した。

「……せっかくなら退院祝いにコンビニのお弁当にしよう!」

一人暮らしだからこうやって遠慮なく大きな声で独り言が言える。

絵への感想は後回しにして、今私がしなきゃいけないことをする。


春独特の空気感とか日差しを楽しめるように薄手の服で私の記憶の中で一番近くにあったコンビニに歩いて行く。人通りも車通りも多くない道を歩いていく。道沿いの家に植えてある紫陽花を見つけてしまった。

私は生きた紫陽花を見たことがない。紅葉もない。クリスマスツリーもない。当然サンタさんなんてものは見る機会がなかった。プールにも行ったことがないから泳げないし、食欲の秋、読書の秋も分からない。ウィンタースポーツも出来ない。私ができることなんて人が当たり前にできることだけ。

そう思ったら悲しくなってきたからコンビニまでの道を少し速足で進む。


速足で歩くと何分もしないうちにそのコンビニのあったはずの場所に着いた。私の記憶ではコンビニだった場所はコンビニじゃなくなってしまっていた。何もないただの空き家というかコンテナになってしまっていて色とかの面影はあるけどそれ以外のものがなにもなくなってしまっていた。

「……ここ無くなっちゃったんだ」

行きつけのお店が私にとって突然なくなってしまうなんてよくあること。

分かっているからショックはあんまり受けていないに受け止めることができた。

これから…とりあえずご飯と求人の本は欲しいから近くのコンビニを調べなきゃ。そう思って携帯を開くと同時に聞き覚えのある声に声をかけられた。「あれ?とせさん。こんな所で奇遇ですね」

「御影さん」

声のした方を見るとランニング中なのか薄手のパーカーと動きやすそうなズボンで息を切らしている。

この間、というか昨日告白を断ってしまった上に元々は話したことがない見ず知らずの人ということもあって気まずさを感じる。御影さんの方はそんな気まずさを感じさせることなく楽しそうに話しかけてくれる。

「年さんの家ってこのあたりなんですか?」

「は、はい」

「じゃあ偶に会えるかもですね。よくこの道を走ってるので」

明るく爽やかという言葉が正しいような笑顔で話してくれる。多分…御影君みたいな人のことを世間一般ではかっこいいとか言ったりしてるんだろうなって思う。

「あ、というか邪魔しちゃいました?」

「大丈夫です。適当に……散歩していただけですから」

知り合いというには関係が薄い御影君だけど求人の本を探しているなんてことを話すのはどこか恥ずかしくて噓をついてしまった。

「そうですか。じゃあ一緒に散歩してもいいですか?」

「えっと……いいですよ」

断る理由が思いつかなったから一緒に行くことになってしまった。

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