ロマンチックに見える出会い
一日目
「好きです。付き合ってください」
そう言って頭を下げながら右手を前に突き出している人。春になったと言うのに真面目に学ランを着ていて髪は黒髪、短髪。通っている学校の校則を真面目に守っていることが伺える。性別は…多分男の人。
「えっと……どちら様ですか?」
「あ、名前。僕の名前は
ここは病院で私は季節の変わり目ということもあって私は入院中。でもそろそろ退院できそうだから最後に病室から見えていた梅を見に来たところ。今は元気だからとりあえず咲き始めたばかりの梅を見に来た人がいっぱいいるこの中庭でいま私たち二人はとっても浮いてる。何にせよ移動しないとだめだな…。
「ここだと目立つからとりあえず移動しようよ」
「分かりました」
分かりましたっていうと同時に『もしかして』って目を輝かせたのが分かった。
「ねぇ、留萌さん「御影って呼んでください」あっと、はい。じゃあ、御影さんはなんで私に声をかけたんですか?」
「それはもちろん一目惚れですよ」
私の知っているの私だけの十五ヶ月の中にこんな感じに距離感を近づけてくる人はいなかった。少し怖いけど…全く拒絶したいわけじゃない。
もともとの知り合いに声をかけられたときのような安心感があって、そのせいもあって見ず知らずの人を安易に病室に連れてきてしまった。
病室の前にはほとんど意味のない名前の看板が置いてある。『年』その漢字一文字だけ。この名前は曾祖父が気まぐれで好きな漢字を使いたくて改名したものだと教えられている。
「
御影さんがネームプレートを見て口を開く。
「そ、そうだよ。驚いた。この名字を初めてみて読める人がいるんだ」
「初めてっていうか何度かこの名前の人と交流があっただけですよ」
「へーこの苗字の人って私だけじゃなかったんだ」
てっきりこんな読みにくい苗字の人は私の家系だけかと思ってた。他にも苦労している人がいっぱいいるんだな…。
「ぜひその人に会いたいな」
「……そうですね。で、改めて付き合って下さい」
梅の木の下と同じように手を差し出してくる。でも私の答えは決まってる。なのになんで病室まで連れ着てしまったんだろうって後悔している。多分原因は明日家に帰れるって考えて気が緩んでたんだと思う。
「ごめんなさい。……こんなに期待させるようなことをさせちゃったけど…。本当にごめんなさい」
御影さんが丁寧に頭を下げるから私も丁寧に断る。
「……やっぱり好きでもない人とは付き合えないですよね……」
それから物凄い気まずい時間を過ごしながらいそいそと御影さんが帰っていった。
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