第8話
クラスメイトの田染大地君が自殺したと連絡が入ったのは、町内長のお孫さんが殺害されてから二日後のことだった。
遺書は無かったらしいけど電車に飛び込んだらしくて事件性はない、そう警察は判断したって芹香は言った。
「それにしても驚き、あの完璧超人だと思ってた田染がまさか自殺なんて」
「なんか変だよこの町、急に何もかもが激変したみたい」
私は不安をもみ消すかのようにクッションを抱きかかえる。
両親が仕事で不在の今日、芹香に無理を言って泊りに来てもらったけれど、それでも肌寒さは治らない。
「確かにねーまぁ、怖いよねー。ってか彼氏さんに来てもらった方がたよりがいがあったんじゃん?男だし」
「まぁ、それはそうなんだけどね。親にバレたくないし」
そう公男のことは両親には黙っているママは大丈夫だろうけど、パパは多分そんなこと知ると泣くと思う。
うん、割とガチで。
正直そんな親の姿は見たくない。
いつかその日が来る、それはわかってるけど今はまだ先送りにしたい。
「親いないじゃん」
「急に帰ってくるかもじゃん、それより首のそれ、珍しいね」
これ以上追求されるのも面倒で話をすり替えるために芹香がここにきてから目についていたネックレスに話を振る。
芹香がネックレスをしていることは別段珍しいことじゃないけれど、今芹香がしているのはまるで漆でも塗りたくったかのような真っ黒なクロスネックレス。
それは明らかに芹香の趣味とは違うものだった。
「ああこれ?彼氏から!」
指でネックレスを弄びながら嬉しそうに答える芹香に私は「うぁ」と馬鹿みたいな驚きの声を上げてしまった。
「えっ!彼氏出来たん!?マジ!」
身を乗り出し聞くと芹香は可愛らしくコクリとうなづく。
いつもはどちらかというと勝気な芹香の小動物のような可愛らしい仕草、そのギャップに私の心はキュと締め付けられる。
そして抑えきれないと芹香に抱きつく。
「ちょ!ほっしー!?」
「おめでとう!良かったね!」
自分の事じゃないのに小躍りでもしたくなるほどの喜び。
精一杯のおめでとうを伝えると芹香は真っ赤な顔でありがとうと答えた。
「でさぁ、その彼氏ってどんな人なん?」
ニマニマと笑いながら私が聞くと芹香はウゥとなにやら呻きながら顔をクッションの埋める。
なんだろうか?この可愛い生物。
コレは芹香の新しい発見だ。
今後はしばらくコレでいじろうって心に誓う。
「年上の人10上」
「10っう!マジでってことは相手は27!ひゃー大人」
脳天な驚き方をする反面、私の心は少し焦りにも似た驚きを抱いていた。
それはもちろん相手の年齢によるところ。
今時年の差なんて珍しい話じゃないけど、学生と社会人の恋愛は大丈夫なのかと考えちゃう。
相手の人は本気で芹香のこと考えてくれてるのかな?
余計なお節介かもだけどそんな心配をしてしまう。
「でもそんな年の離れた人とどうやって出会ったの?」
「ああ、それはバイト先で」
「ああ」
芹香が喫茶店でバイトを始めた事を聞かされたのは確か二週間ほど前の事だった。
私は行ったことはないけれど駅前にあるその喫茶店はなんだか落ち着いた雰囲気があって私や芹香のイメージとは合わない場所だと決めつけていたので彼女がそこでバイトをすると聞いたときは驚いた。
「バイト先の先輩?」
「違うお客さん」
「常連さん?」
「どうだろう?私も最近働き出したばかりだから」
芹香のその言葉に少しの違和感を覚える。
片思いの相手ならまだしも、付き合ってるのにそれも知らないのか?
そんな話真っ先にしそうだけど?
「仕事とか何してるの?」
「もう良いじゃん」
芹香はそう言うと布団の中に潜り込んだ。
しまった、しつこく聞きすぎたかな?
「ごめん!ねぇ芹香怒った?」
私が謝りながら近づくと布団の中から芹香の腕か飛び出してきて私を布団へと引きづりこむ。
「へへ、捕まえた!色々聞いた仕返しだ」
そう言いながら芹香は私に抱きついてきた。
「ちょ!芹香なに!?」
ふざけれるのはわかった。
だけどなぜか震えてる芹香の肩私にはその理由が結局わからなかった。
もしその理由にもっと早く気づけばまた違う結末があったのだろうか?
それから3ヶ月後芹香は妊娠で退学となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます