第48話託された想い
――――《バルマン攻防戦》――――
攻防戦は三日目を過ぎていく。
四日、五日目ともなると、今まで以上に更に
「城門だけは、なんとしてでも死守しろ!」
「負傷兵はさがらせろ! 邪魔だ!」
「くそっ!
この数日間、妖魔兵は全方角から押し寄せてきた。
五十分の一の兵力しかないバルマン軍は、それに対して善戦している。
騎士と正規兵、義勇兵が奮闘していたのだ。
戦える全ての者は、心を奮い立たせ武器を振るっていた。
城壁の上から弓矢を射り、投石を投げつけて、迫り来る妖魔を必死で打ち倒している。
「ひっ、中級の妖魔が城壁の中に⁉」
「どけ、私が斬る!」
「騎士さま!」
今のところ妖魔兵は城壁の外に、押しとどめている。
だが特殊能力をもつ中級以上の妖魔は、城壁を飛び越えて街の中に侵入してくることもある。
騎士団はその対応に追われながらも、一体ずつ確実に仕留めていく。
戦術と連携をフルに活用していた。
彼らの奮戦により、今のところ破られた城門はまだない。
耐えている要因は、妖魔軍の戦い方が単純だから。
奴らは本能に従い、ひたすら前進しかしてこないのだ。
だが今回は相手の数が多すぎる。
時間が経つごとに、確実にバルマンの防御力は削られていく
まだ死者は多くはない。
だが連戦により、城壁を守る守備兵は徐々に傷つき、疲労は蓄積されていく。
それを補佐する補充兵も、また負傷。防御の薄い場所が出てきたのだ。
あと一つ“何か”が起こったなら、この均衡は簡単に崩れてしまう。
そんな薄氷の状態だった。
――――そして“その時”は無残にも訪れてしまった。
遂に城門の一つが破られたのだ
――――《バルマン攻防戦》七日目――――
「西門が破られたぞ!」
「各門に警鐘を鳴らせ!」
バルマンの街中に、けたたましい警鐘が鳴り響く。
鳴らす方も命懸けで、全力で鐘を叩く。
怒声と嫌な崩壊音が入り交じり、私は思わず耳を塞ぐ。
七日目を迎えたバルマンの攻防戦。
街を囲む城門の一つが、遂に破られてしまったのだ。
しかも西門には私マリアンもいた。
私も必死で騎士兵士たちを指揮していた。
だが、これまで以上に執拗な波状攻撃をしかけてきた上級妖魔に、守備兵が持たなかったのだ。
「全部隊、バルマン城まで撤退するぞ!
当初の最終作戦の通りになってしまった。
バルマンの街を放棄。市民たちと一緒に、城まで退避するのだ。
「マリアンヌ様も! 城まで撤退してください!」
この西門を総指揮していた老練の騎士が、私に指示を出してくる。
早くこの場から撤退しろと、叫んできた。
「いえ! 私もここに残り、殿の部隊を指揮します!」
老練な騎士に、私は反論する。
相手の方が何倍も年上であるが、ここは引くわけにはいかない。
何故なら西門を守っていた
|乙女指揮官《ヴァルキリア・コマンダーが誰もいなくなると、騎士兵士の戦闘力はダウンする。
だから私も一緒に残り、他のみんなが退避する時間を、稼ぐ必要があるのだ。
「いえ、それはダメです。マリアンヌ様は、まだ未来ある身……命を散らすは、我々老いぼれ達だけで十分です」
「ですが!」
「おい、誰か。お嬢を城まで、お連れしろ!」
「はっ、失礼します。マリアンヌ様!」
反論しようとした私は、若い騎士に力づくで拘束されてしまう。
用意してあった退却用の馬に、強引に乗せられる。
「放しなさい! 私も一緒に、ここに残ります!」
私には未来が見えていた。
このまだと老騎士たち殿部隊は、確実に全滅してしまうのだ。
「お嬢、本当に立派になられましたな」
老騎士は静かに語りかけてきた。
その目を細めて微笑む姿に、私は見覚えがあった。
私マリアンヌが産まれる前から、この者はバルマン家に仕えていた忠義の将。
数々の武功をあげていた歴戦の騎士だ。
そして幼いころの私マリアンヌに、何かと気にかけてくれていた人物だ。
……『お嬢、これはカレランという花ですぞ』
忙しい父上様に遊んでもらえずに、幼い時野私は孤独だった。
そんな私マリアンヌと、この老騎士はよく遊んでくれた。
肩車をして庭を散歩。庭園に咲くいろんな花の名前を、私に教えてくれたのだ。
後で知ったことだが、この老騎士は実子を、流行り病で亡くしていた。
だから寂しがっていた私を、何かと気にかけてくれていたのだ。
「バルマンの未来を、よろしく頼みますぞ……お嬢」
そんな優しかった老騎士の最期の笑顔。
当時のことが急に思い出される。込み上げる想いで、私は感極まる。
「はい、必ず。この身に誓います!」
でも私は涙をこらえて、その言葉は伝える。
後のことは任せてくれと。
「急げ! きたぞ!」
――――その時だった。
西門を破った妖魔の大軍が、遂に街の中まで侵入してきた。
私を乗せた、若手騎士の軍馬も駆けだす。
「殿を務めるバルマン兵たちに、告げる!」
老騎士の声が後ろから聞こえてきた。
志願して残る騎士兵士に向かって、最後の激を飛ばしているのだ。
「後に残す家族は、マリアンヌお嬢さまが必ず救ってくれる! だから我々は、ここで命を惜しむな! バルマン魂と意地を、妖魔どもに見せつけてやるのだ!」
「「「おぉおお!」」」
後ろから凄まじいほどの雄叫びが上がる。
玉砕覚悟でその場に残る者たちは、呼応して天高く叫んでいたのだ。
「皆さまのことは決してけっして忘れません……」
私は後ろを振り返りながら、その光景を最後まで見つめる。
志願兵たちが妖魔に突撃していく。
そして、あの老騎士も上級妖魔に斬りかかっていた。
「みなさん……」
気がつくと、目の前が涙で溢れていた。
でも視線はそらさなかった。
見えなくなる最後の時まで、志願兵たちの勇姿を見つめるのであった。
◇
――――それからしばらくして時間が経つ。西門の守備隊は全滅した。
他の全ての者たちを、安全な城内に退却させる大任。
老騎士たちは命をもって、遂行してくれたのだ。
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